こうしてみると国友は、男の「欲望」に対して極めてストレートな作家だったといえる。時代や年代ごとに、男が求める赤裸々な欲望を、そのままスキャンして取り込み、抜群の物語構成力によって商品化している。だからその作風はエロくて、エモいのにどこか冷静で理知的だ。
おそらく国友自身に何かを強烈に描きたいという欲望はなかったのだろう。だから編集者が持ち寄る企画やヒントを着火点に、時には絵柄まで時代の要求に合わせてスキャニングし、世間に蠢く欲望を次々と素材化することで、印象的な物語の量産化を実現したのだ。
国友がスキャンする欲望は、バブルのたぎる性欲からポストバブルの生存欲求、そして中年男の煩悩へと対象を変えてきた。そして今、漫画を描き続けることに執着を見せないということは、もう新たに取り込むに値する欲望を見つけられないということだろう。
国友の現在の制作スタイルは極めて合理的だ。背景画や顔の輪郭などの素材を大量にスキャンしてデジタルデータ化し、タグ付けしてアシスタントと共有し、素材として活用することで、制作の効率化と品質管理を実現させている。そうした「働き方改革」で得た自由時間で、バンド活動や演劇の脚本執筆など、やりたいことをして悠々自適に過ごしているという。
少子高齢化が進むいま、老年の欲望というテーマは残されているはずだけれど、弘兼憲史の『黄昏流星群』のような領域には、もはや興味がないようだ。バブルから平成に賭けて、長いこと男たちの欲望を取り込み続けた国友は、ようやく自分自身の欲望のままに羽ばたこうとしているのかもしれない。
<文/真実一郎>
【真実一郎(しんじつ・いちろう)】
サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『
サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある。
サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある