バルセロナ在住日本人が見たカタルーニャ独立運動「半分以上は独立に対し冷ややか」
ドミニク・ラピエールとラリー・コリンズによる「パリは燃えているか?」という傑作ドキュメントがある。ヒトラーがパリを撤退する際にパリ市街の焼き討ちを命じ、現地指揮官がのらりくらりと命令を拒否する話である。今読んでも面白い、歴史的名作である。
さて、ここ数週間にわたり国際ニュースはカタルーニャ独立関連の報道で埋め尽くされている。住民投票で90何%かの賛成票を得て独立という話になったかと思えば、スペイン国家警察の「弾圧」が報じられ、自治権停止だの、自治政府首相が反逆で訴追だの、物騒な話が続いている。そこで筆者は現地に在住する日本人女性、佐藤美佐江(仮名・敬称略)に実情を聞いてみることにした。
彼女は現在三十代後半、日本で知り合ったカタルーニャ人男性と結婚して渡欧、現在は二歳の子供を育てながら会社員をしている。現在も日本国籍を維持しており、投票権はない。そして筆者の長年の友人でもあるため、お互いにくだけた口調で話したことを先にお断りしておく。
筆者が一番疑問だったのは、例の「州民投票」だ。日本なら、選挙前に必ず有権者に案内の郵便が送られてくるではないか。投票場に行けば、身分証明書を出して本人であることを確認し、一人一票が配られる、という当たり前の作業が行われる。カタルーニャには、生粋のカタルーニャ人だけでなく、スペイン南部のアンダルシアその他から出稼ぎ、移住してきたスペイン人も多数いる。一体どこからどこまでを「有権者」として、案内を出したのか。
「ああ、あの違法のやつね。そんなの全然なかったよ。だからうちの家族も誰一人として投票行ってないし。周りの友達も行ってないしね。私たちのところにもそういう投票案内みたいな郵便物は届かなかったし、ただ近くのいつも投票している小学校にばぁっと投票に行く感じだった。何歳からが有権者になるのかも私知らないし、だいたい日本なら投票を済ませたら選挙ハガキと照らし合わせてチェックするじゃない? それもないから、簡単にほかの投票場で一人で重複投票できちゃうのよ。あれじゃちょっと適当すぎるよね」
美佐江は開口一番、州民投票を“あの違法のやつ”と切って捨てた。
あの住民投票のあと、弾圧の様子が全世界に報じられた。
「あのとき動いた警察は、中央警察と州警察の二つ。うち中央警察のほうはマドリードからの指示で投票をやめさせろという指令を受けて、色々妨害をしていたんだけど、州警察のほうは中央の指示にしたがって動かないといけないはずなのに、どっちつかずというか、おそらくジレンマがあったのか、少し交通整理をするくらいで投票の日は中央政府の命令に完全に従わなかった」
その州警察の構成員は大部分がカタルーニャ人ということか?
「でもね、私の知り合いにも州警察の人いるけど、その人は両親が外から来たスペイン人だし、州警察の中もいろいろ割れているみたい」
その後、国王の演説があった。筆者個人の意見だが、カタルーニャに対する配慮が一切なく、あれでは独立したくなる気持ちもわからないでもない。前国王なら、もう少しまともな話をしたのではないか。
「確かにあれはひどかったよね。スペイン視点でしか国王が語れないのはわかるけどさ、あれで独立派をさらにたきつけちゃったよね」
ただ、現地に暮らしている一市民からすると独立派にも思うところがあるという。
「私だって最初は中央警察がやりすぎたと思ったけど、冷静に見ていると暴力沙汰になるように挑発して煽っているのはどう見ても独立派。これは私だけじゃなくて、私の周りにいる人は大部分の人がそう思っているんじゃないかな」
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