公正さも透明性もないサービスならば、「インフラ」ヅラするのはおかしい【「やや日刊カルト新聞」藤倉善郎氏緊急寄稿】

 前回、自身のTwitterアカウントが、一方的な判断でTwitter社にロックされた経緯と、Twitter社による理由が不明確なまま一方的な凍結が横行していることを語ってくれた、「やや日刊カルト新聞」総裁、藤倉善郎氏。  後編となる今回は、実はTwitter以前からはびこっていた、「サービス提供会社がある一方の言い分を受けて別のユーザーのアカウントを封じてしまう」事例について語ってもらった。

10月11日の投稿を最後に更新できない状態の藤倉氏のTwitter

「グロービートジャパン」事件(2003~2010)

 Twitterは2008年にスタートしたサービスだ。しかしこうした問題の構造は特段新しいものではない。  2003年、「グロービート事件」と呼ばれる事件が起こった。『平和神軍観察会 逝き逝きて平和神軍』というテキストサイトに対して、全国展開のラーメンチェーン「ラーメン花月」を運営する「グロービートジャパン」が訴訟を起こしたのだ。  かつて人気を誇ったSNS「ミクシィ」(mixi)のサービス開始が2004年2月。SNS流行より前に発生した事件だ。  グロービート社の代表取締役社長・北条晋一(本名:黒須伸一)氏の父親である黒須英治(中杉弘)氏は、同社の51%の株を所有し、同社から「給与」名目で年間4千万円前後の金銭を受け取っていた一方で、「日本平和神軍」と名乗る「右翼カルト」集団の総統として、朝鮮人や中国人に対する差別的な説法などを行っている。  当時、『平和神軍観察会』には、こうした事実やグロービート社と黒須氏あるいは日本平和神軍とを結びつける資料などが掲載されていた。 『平和神軍観察会』の運営者は、当時会社員の男性。ジャーナリスト等ではない。男性は、日本平和神軍関係者と思しき人物から自宅を特定され脅迫まがいのことも受けたが、屈せずにサイトを運営していた。  しかし2003年、グロービート社が名誉毀損と営業妨害を理由に3150万円の損害賠償を求めて男性を提訴。同時に刑事告訴も行っており、男性は2004年に起訴された。  男性は「自分が泣き寝入りすればネットの表現の自由が萎縮しかねない」として、民事提訴から7年間、裁判を闘った。膨大なウェブサイトの内容のうち、ごく一部の事実関係の誤りや揶揄的な表現が問題視され、民事では77万円の賠償命令が確定し、刑事では有罪(罰金30万円)が確定した。賠償額も罰金も多額とはいえないが、敗訴である。  民事の東京高裁判決は、グロービート社と日本平和神軍の関係について「一体又は極めて密接なものであるとまでいうことはできない」として、両者に密接な関係があるとする男性の主張を退けた。しかし同時に「一定の関係があると評価することは誤りではない」とも認めている。  しかも民事裁判の高裁判決の後、刑事裁判では、黒須氏がグロービート社の株式を51%所有していることや、少なくとも02~05年度に会長として計1億5,000万円以上の報酬をグロービート社から受け取っていたことも判明した。  グロービート社が日本平和神軍との関係を否定して起こした訴訟なのに、グロービート社が勝訴すると日本平和神軍のウェブサイトに「勝利宣言」が掲載されるということも起こった。  この事件は判決が出るたび、ネット上でも一般メディアでもかなり注目された。新聞の多くは「ネット上の誹謗中傷問題」という程度の扱いしかしなかったが、雑誌やネットメディアは『平和神軍観察会』のサイトの内容とそれに対する裁判所の判断、グロービート社が起こした訴訟のSLAPP(嫌がらせ訴訟)的な側面にフォーカスした。  しかし、『平和神軍観察会』をめぐっては、裁判になる前の段階で、現在のTwitter社の凍結問題とよく似た事が起こっていた。 『平和神軍観察会』は、いちど抗議を受けて掲載するプロバイダを変えている。移転先は「ぷらら」だった。「ぷらら」はグロービート社からサイトを削除するよう抗議を受け、『平和神軍観察会』運営者の男性に連絡。男性は異議を唱えたが、「ぷらら」は一方的にサイトの削除を決めた。今回、筆者は改めてこの運営者の男性に話を聞いた。 「当時、私はサイトの置き場所だけではなく、ネット接続のプロバイダ契約もぷららを利用していました。『平和神軍観察会』の削除を求めてきたぷららは、一方的にサイトを削除するだけではなく、プロバイダ契約まで即刻解除すると通告してきたんです。いきなりそんなことをされたらネット接続もできなくなるし、メールアドレスも消えるので仕事もできなくなる。あまりに生活上の支障が大きすぎると主張して何とか1~2か月の猶予をもらいましたが、結局はサイトだけではなくプロバイダ契約もメールアカウントもすべて削除されました」(運営者の男性)  すでに情報や通信のインフラの地位を確立しているネットサービスのこうした対応は、表現の自由どころか、基本的な生活環境すら危機に陥れる。「インフラ」なのだから当然だ。  Twitterは、アカウントをロックされると、ロックの解除のための画面(投稿の削除に同意するか異議申し立てをするかの選択を求める画面)しか表示されない。ログアウトしても、スマートフォンのアプリやブラウザでは全くTwitterを閲覧できない。極論すれば、いま災害が起こっても筆者はTwitterで状況を把握することはできないし、被災地で孤立してもTwitterで広く救助を要請することはできない。  個別の投稿の削除だけであれば「表現の自由」の問題だが、アカウント自体を使用不能にすることは、「インフラ」そのものを没収するということだ。
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