公正さも透明性もないサービスならば、「インフラ」ヅラするのはおかしい【「やや日刊カルト新聞」藤倉善郎氏緊急寄稿】

問題の構造は何一つ新しくないが……

 このように、Twitterがユーザーを処分する際の不透明なプロセスの問題には、とくだん新しさはない。新しいのは、Twitterという不公正な巨大サービスが「インフラ」ヅラしてネット上に横たわっているという状況だけだ。 「グロービート事件」の前年の2002年、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)が施行されている。同法では、ネットの投稿で権利を侵害されたと主張する側がプロバイダに「発信者情報の開示」や「送信防止措置」を請求した際の、プロバイダ側の対応手順と責任について定めている。  こうした法律があること自体、ネットサービスの提供者が表現する側と表現をやめさせたがっている側との板挟みにあう状況について、15年も前に議論がなされ一定の結論が出たということだ。  同法の第3条の2では、プロバイダは権利を侵害されたとするものからの申し出によって「送信防止措置」を講じた場合、発信者に損害を与えたとしてもプロバイダが賠償責任を負わなくてよいとされる条件が定められている。  まず1つ目は、当該情報の送信防止のために必要な限度において行われたものである場合。これを満たした上で、さらに2つの条件がある。  不当な権利侵害が行われていると信じるに足る理由があった場合か、あるいは送信防止措置に同意するかどうかを発信者に照会し7日以内に同意しない旨の申し出がなかった場合だ。  グロービート事件では、「ぷらら」はサイトの削除やプロバイダ契約の解除を実行する前に、『平和神軍観察会』の運営者男性に同意するかどうかを確認した。この点ではこの法律に沿った手順だ。サイトの削除だけではなくプロバイダ契約の一方的な解除という「ぷらら」の行為は「当該情報の送信防止のために必要な限度」とは思えないが、男性は「ぷらら」との間では訴訟を行っておらず、この点について裁判所の判断は下されていない。  Twitterについては、どうだろう。  Twitterはアカウントを使用不能にする際、理由もルール違反と判断した根拠も示さない。「不当な権利侵害が行われていると信じるに足る理由」をTwitter社は主張しない。ユーザーに対して一切の事前通告も意思確認もしていないため、「送信防止措置に同意するかどうかを発信者に照会し、7日以内に同意しない旨の申し出がなかった場合」には当てはまらない。  そもそも、凍結やブロックは抗議の対象となった投稿と無関係の投稿や私信の送受信まで不能にしているのだから、大前提となる「当該情報の送信防止のために必要な限度」を明らかに超えている。プロバイダ責任制限法が定める、賠償責任を負わなくていい条件を1つたりとも満たさない。  そして同法が賠償責任を負わなくてよいと定めているのは、権利を侵害された者からの申し立てがあった場合だ。Twitterの事例では、権利を侵害された当事者ではない者からの通報によるものと思われるケースもある。  Twitterはプロバイダ責任制限法の全てをないがしろにしているように思える。凍結やロックをされたユーザーが弁護士に依頼したり裁判を起こしたりすれば、それなりにTwitterの責任を追求できるのではないだろうか。しかし、弁護士をつけなければたった140文字の文章と写真も投稿できないサービスなど、「インフラ」として致命的な欠陥があるように思えてならない。  Twitterのルールの内容が気に食わないという話ではない。ユーザーの利益を一方的に害するプロセスでルールが運用されていることを批判しているのだ。これでは、ルールが正しいかどうか以前の問題なのである。  いま、Twitterをめぐる言論環境は、「グロービート事件」や「Google八分問題」が騒がれた時代よりはるかに劣化している。自由がなく漠然と強烈に萎縮しながら投稿するしかないSNS。宗教団体等が「都合が悪い」と考える事実を発信することも見つけることもできないSNS。利己的な動機や「ネタ」としてですら、他者の表現を潰せてしまうSNS。私達は、こんなSNS企業に飼いならされた豚でいていいのか。こんなサービスが「インフラ」であっていいのか。  Twitterに対して差別やヘイトスピーチの規制強化を求める意見もある。規制の内容次第では筆者も賛同しないではないが、少なくとも現状のTwitterにそれを求めるのは非常に危険だ。公正なプロセスで対処する能力を持たないSNS企業にそんなことをさせれば、差別やヘイトスピーチ以外の巻き添えを大量に生み出す。むしろ合理的な差別規制を求める上でも、その前段階として公正なプロセスの確立は不可欠だ。  いまいちど、ネット上の表現の自由をめぐる過去の事件が残した教訓や、その事件で自由や権利を守ろうと闘った人々の問題意識に、目を向けてみてほしい。 <文/藤倉善郎(やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:@daily_cult ※ロック中> ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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