Googleが出資する月探査レース「GLXP」が佳境に! 日本も参戦、勝つのはどこだ?

GLXPに見切りをつけたアストロボティック

 こうした背景から、GLXPは、たとえばエレクトロンの打ち上げが一発で成功するとか、あるいは主催者がさらなる期限の延期を決めるかといったような、なんらかのウルトラCでも起こらない限りは、勝者も敗者もないまま、半ば不成立に近い形で終わりを迎えようとしている。  ただ、チームインダスとHAKUTOを襲ったPSLVの事故は予想できなかったため仕方ないとはいえ、全チームがロケットの確保すらできないまま終わりを迎えそうというのはお粗末な話ではある。  もちろん、主催者らは何チームかは月へ行けるようになるだろうという、ある程度の目論見があって始めたのだろうが、たとえば打ち上げに使うロケットは主催者側で用意するとか、エレクトロンのような安価なロケットが安定して打ち上げられる時代になるまでは期限を伸ばすといった配慮が必要だったのではないか。今になって言えることではあるが、そもそものGLXPの目標やルールにやや無理があったということだろう。  そんな中、あえてGLXPに見切りをつけた企業がある。米国のアストロボティックである。  アストロボティックは、技術力も資金力も十分にあり、かつてはGLXPの優勝候補とも呼ばれていた。しかし2016年12月に、突如としてGLXPからの撤退を発表する。GLXPに勝てる見込みがなくなったわけではなく、同社が構想している「月探査や資源開発をビジネスを成功させる」という目的を確実に実現するためには、GLXPというレースに参戦し続けることはそぐわない、と判断したからだという。  もちろんそれは負け惜しみではなく、アストロボティックはその後も探査機の開発を続けており、具体的な月開発のプランも出している。さらに2019年に独自に月探査機を打ち上げることでロケットの契約も済ませている。

アストロボティックが開発中の月探査機の想像図 Image Credit: Astrobotic

“月開発会社”をすでに生み出したGLXPと、月開発の未来

 もっとも実のところ、まだGLXPに挑戦し続けている5チームも、GLXPはゴールではなく、将来の月の開拓に向けた通過点、あるいは一里塚だとみなしている。つまり目的はアストロボティックもGLXPに参戦する5チームも同じで、そのやり方や考え方が少し異なり、GLXPを寄り道と捉えているか、階段のひとつの段と捉えているか、という違いがあるだけにすぎない。  来年3月に、GLXPがどういう結果に終わるにせよ、それぞれのチームの手元には技術と人材が残る。もちろんすべてのチームが、今後も月の開拓という目標に挑戦し続けることができるかはわからないが、少なくともその可能性をもつ企業や団体が世界中でいくつも生まれ、民間による月開発の火付け役になったという意味では、GLXPには大きな意義があったといえるかもしれない。  アポロ11で月に降り立ったニール・アームストロング宇宙飛行士は、月に第一歩を記した際、「私の一歩は小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩である」という言葉を残した。  そして今、人類にとって新たな一歩が、民間の力によって記されようとしている。

日本チーム「HAKUTO」が開発中の月探査車 Image Credit: HAKUTO

<文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info) 【参考】 ・Why the Moon | Google Lunar XPRIZE(https://lunar.xprize.org/about/why-the-moon) ・Google Lunar XPRIZE Offers $4.75 Million to Teams Who Complete In-Space Milestones on Way to the Moon | Google Lunar XPRIZE(https://lunar.xprize.org/press-release/google-lunar-xprize-offers-475-million-teams-who-complete-space-milestones-way) ・The Mission | SpaceIL(http://www.spaceil.com/mission/) ・Expanding Earth’s Economic Social Sphere | About Us | Moon Express(http://www.moonexpress.com/about-us/) ・Mission To The Moon – TeamIndus(http://www.teamindus.in/mission/
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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