医療服を着たまま平気で電車に乗るアメリカの医師・看護師。その衛生観念を聞いた

道端に医療服のまま座り、タバコを吸いながら携帯電話で話す医療従事者

「モテ目的」のためにわざと脱がない医師もいる!?

 確かに、突き詰めていくとキリがない。  最近の調査によると、アメリカ国内106の病院に勤務する各医療従事者の電子機器全てから、バクテリアが検出されたという報告や、病院を訪れる患者の携帯電話の84%からも微生物が検出され、そのうちの12%は、院内感染につながるバクテリアだったというデータもある。  とはいえ、スクラブは患者と医療従事者を常に隣り合わせる「第一線」の服である。そんな服を着たまま外に出てしまえば、スクラブの存在意義は完全に失われることになる。  衛生問題である手前、この「スクラブ問題」がアメリカの有力紙「New York Times」をはじめとする複数のメディアで度々取り上げられていることに何の不思議もないのだが、なぜかアメリカ国民はこの問題に比較的寛容で、幾度となくこの件に関する記事が世に出ても、同調する声が医療業界を動かすまでには至らずにいる。  それを裏付けるかのように、今回話を聞くことができた一般のアメリカ人50人のうち39人が、「気持ち悪いけど、ここ(アメリカ)では日常のこと」、残りのうち2名においては「言われるまで(スクラブが汚いと)気付きもしなかった」と回答したのだ。  「スクラブで出退勤する」行為は、もう1つ大きな事実を隠し持っている。それは、そのスクラブが自宅で洗濯されているということだ。  稀に日本でもナース服を家に持ち帰って洗うことがあるというが、アメリカの学術誌「American Journal of Infection Control(AJIC)」によると、病院内や業者が洗ったスクラブがほぼ無菌状態だったのに対し、家で洗ったもの場合、44%ものバクテリアが残ったという実験結果が報告されている。  こうしてこの国の医療現場の不思議に首ばかり傾げている最中、唯一にして妙に納得できる「アメリカ人医療従事者がスクラブを外で着る理由」を発見した。  医療系情報サイト「Physician’s Weekly」で紹介されたある医師の見解によると、「男性医師の中には、自分が医者だというサインを独身女性に送るために着ている人もいるのでは」というのだ。さらに同系情報サイト「General Surgery News」には、ある医師が飛行機に搭乗した際に、その機内で目撃した“スクラブ姿”を紹介する記事が掲載されている。  アメリカの制服事情については後日詳しく綴るが、この理由によってアメリカ人にとっても、制服には何かしらの精神的影響を及ぼす力があると分かったことは、取り急ぎ今回伝えるに値することだろう。  前回述べたように、筆者は以前、しょうもない理由からニューヨークで救急車に乗る機会があったのだが、連れて行かれた病院は、その数年後、世間を震撼させたあのエボラウィルスの感染者が隔離された病院として脚光を浴びることになる。  もちろん、エボラにおいては厳戒態勢であったに違いないが、こういったアメリカの「スクラブ事情」を知ると、やはり若干背筋が寒くなる。  スクラブや“医療服”で街中を歩くということは、院内の病原菌を外にまき散らす危険性だけでなく、院外の病原菌を病棟に入れてしまう危険性もある。いらぬ感染を未然に防ぐべく、“独身女性”にではなく、病原菌にこそ、より一層の対策を講じてほしいと願うばかりだ。 【橋本愛喜】 フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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