漫画家・国友やすゆきが語る、漫画業界「働き方改革」のやり方【あのサラリーマン漫画をもう一度】

漫画制作の「働き方改革」

――いやもうメチャクチャ勉強になります。 国友:もっとあるのが、漫画のスタジオって、通常はチーフがいて流れ作業で、背景やって最後仕上げっていう感じなんです。ウチもやってたんです。でもある時、それが回らなくなった時があったんです。チーフって、通常8年ぐらいやっているヤツで、ゼロから徐々に上がってチーフやって最後卒業、っていう風にトコロテン的にやっていた。でも時代が変わっちゃって、みんな1~2年で辞めちゃうんですよ。そうするとある時にね、入って5か月の奴がチーフにならざるを得なくなったんですよ。もう描けないじゃんという話になって。 ――いわゆる「若者がすぐ会社を辞める問題」と同じですね。 国友:それでいろいろ考えたの。いろんな不満を聞いてみたんだけど、よくある不満が「チーフばっかり仕事して、寝てる奴がいるんですよ」って。チーフって、膨大に作業時間がかかるんですよ。細かい背景を描くわけだから。終わるとベタとかホワイトとかを下に回すんだけど、実はこれって流れ作業じゃないんだよね。ベルトコンベアが止まってるんですよ。現場として生産してない。でも、お金は払ってんの。 ――非効率的なんじゃないか、と。 国友:これもNHKスペシャルか何かで見たんですけど、どこかの工場改革の話があったんですよ。流れ作業が止まっちゃうんですって、どうしても。不具合が出たら止まっちゃって、あとは待ちになる。フォードが作って以来のベルトコンベア方式というのは、果たして本当に最善の方式なのか、と。そこで、自分で全部組み立てちゃうっていうのをやらしてみたら、クオリティが別に落ちなかったんだよね。流れ作業よりこっちがいい、という話になって。 ――セル生産方式ですね。 国友:実は、漫画スタジオの流れ作業、チーフ制度を作ったのは手塚治虫さんだと聞いたんだけど、フォードを参考に作ったといわれていて。そのスタイルはある種の神話だった。でも僕は、一人に全部任せたらどうなるんだろうって考えた。つまり、人間って同じことを繰り返すのはモチベーション的にキツいんだよね。人間性が阻害される世界なんですよ。  だからその番組を見て思いついて、ウチのスタジオを出た奴らの何人かに電話したの。「あのさあ、一枚丸投げでやるっていう方式なら、家に持って帰って一人でできるんだけど、スタジオに来なくていいから、やらない?」って。で、「だったらやりますよ」って言ってくれた何人かにやらせたの。そうしたら、さっきの話と一緒なんですよ。できちゃう。しかもモチベーションは高くなる。 ――スゴい! 漫画の生産方式を変えたんですね。 国友:流れ作業だとアシスタントも自分の単価がわからない。だから全部一律に決めたの。一枚いくらって。重たいページと軽いページがあるから、なるべくバランスとって平均化させて。で、やってみたら、効率いいんだよ。しかも彼らはこれさえやればいいわけだから、早く遊びたくて早くあげれちゃうの。寝たい時に寝れるし。スタジオにいるとそれはできないんですよ。今から始めますって一斉にやるしかない。 ――やることなくて眠ってしまうと、さっきの話のように他の人から不満が出るんですね。 国友:でしょ。で、これをどんどん進めると、チーフは要らないので、必要ない人はどんどん解雇しちゃって。で、昔のアシスタントたちを呼び戻したの。ウチを出てから他の先生のアシスタントをやったりしながら食いつないでいた連中を。だから、いいじゃんこれってなって。そうすると次に考えたのが、「これ、原稿はデジタルでいいじゃん」って。スタジオに5台くらいマシン買って、みんなにスキルを教えて。 ――最終的に完全在宅分業になったのはいつ頃ですか? 国友:『新・幸せの時間』の途中かな。最後のほうでデジタル入稿を始めて、最終的にスタジオを解散して、全部自宅でやってもらうことにした。もしかしたらもう仕事もないかもしれないから、と思って。 ――もう完全に「働き方改革」じゃないですか! コストカットと効率性とモチベーション持たせる、みたいな。全部入ってる、完璧な回答ですよね。 国友:たぶん、一人に全て任せるとか、デジタル化するというのは僕だけではないと思うけど、僕は理詰めで段階的に次にステップに進んでいくところが自分らしいかなと。それで、ちゃんと結果も出たし。しかも、使えないと思っていた人たちが使えたという。厳しいけど、つぶしがきかないんですよ、この業界。  作家としてデビューできるのはほんの僅かで、ある人なんて”シャバ”に戻ろうと思って面接受けたらしいんだけど、履歴書に「アシスタント」としか書けないじゃない。すぐアウトだったって。厳しいですよ。そういう意味では、このシステムは良かったよね。しかもこのシステムだと、顔を会わせないので、作家さんが若くても年取ったアシスタントを使えるんだよ。やっぱ辛いじゃん、20代半ばの奴が、50~60歳のじいさんを使うのはね。話も合わないしね。 ――なるほど、ベテランアシスタントの仕事の間口が広がるわけですね。スゴいです。 国友:スキルはちゃんとある訳だからね。専門職だと考えたほうがいいかも。とはいえもはやデジタルワークができないとキツいですけど……。
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幻のオリジナル曲『幸せの時間』が解禁!?
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