日本の人工衛星「しきさい」がまもなく宇宙へ! 気候変動の謎を解き、地球の未来を守れ

杢野正明(もくの・まさあき)プロジェクト・マネージャー

「しきさい」のミッションについて説明する、杢野正明(もくの・まさあき)プロジェクト・マネージャー

早急な後継機の開発で長期の継続的な観測を

 しかし、「しきさい」の一番の大きな目的は、やはり気候変動のメカニズム解明につながる地球の観測にあろう。ある研究では、気候変動問題の解決・抑制のための猶予はもう待ったなしの状況にあると考えられており、その正確な状況を知り、そして確実な対策を立てるためにも、「しきさい」のデータはきわめて重要になる。  日本は2012年に、「しきさい」の姉妹機にあたる「しずく」という衛星を打ち上げ、現在も運用している。雲やエアロゾルを中心に観測する「しきさい」とは違い、「しずく」は大気や土壌中の水の量や温度を観測することを目的としており、両者のデータを合わせることで、地球環境や気候変動のメカニズムについてさらに理解が進むと期待されている。  だが、「しずく」は今なお動いてはいるものの、すでに当初の観測予定期間である5年を過ぎている。現在のところ後継機を開発する予定はないため、故障すればすぐにデータが途切れてしまうことになる。衛星の開発に数年かかることを考えれば、「しずく」はもちろん、「しきさい」もすでに2号機の開発が始まっていなければならないが、まだその動きはない。  つまり「しずく」も「しきさい」もそれぞれ1機のみで、わずか5年少々のデータしか得られないことになる。地球環境について正確に知るには、もっと長期の連続したデータが必要になるが、このままでは不足することは避けられそうにない(欧州などの衛星のデータを利用することはできるだろうが)。 「しずく」、「しきさい」のデータは、日本のみならず、私たち人類をはじめとするあらゆる生きとし生けるもの、そして地球の未来に役立つものになるのは間違いない。そして日本はこの分野において、独自に高性能な衛星を打ち上げられるだけの技術があり、これまで蓄積してきた知見もあり、そして米国がこの分野の研究に消極的になりつつある現状を考えれば、日本が率先して取り組むべき課題でもあると言えるだろう。  今後、できる限り早い段階でそれぞれの2号機、3号機が打ち上げられ、そのデータが地球を救う鍵になることに期待したい。
打ち上げを待つ「しきさい」

打ち上げを待つ「しきさい」

<取材・文・写真/鳥嶋真也> とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。 Webサイトhttp://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info 【参考】 ・しきさい(GCOM-C) | 人工衛星プロジェクト | JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター(http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gcom_c1/) ・JAXA | 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)(http://www.jaxa.jp/projects/sat/gcom_c/) ・しきさい(GCOM-C)プロジェクトマネージャ 杢野 正明 | 衛星を支える人たち | JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター(http://www.satnavi.jaxa.jp/supports/project/gcom_c_mokuno.html) ・GCOM-Cの目的と観測対象/気温上昇量の予測精度の現状(http://suzaku.eorc.jaxa.jp/GCOM_C/w_gcomc/pre_temp_now_j.html) ・ココが知りたい地球温暖化 | 地球環境研究センター(http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/qa_index-j.html
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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