元祖レッドブル創始者の孫、国際指名手配に。変化を見せ始めたタイの警察体質

SNSが庶民の声を可視化

 ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の発達で、これまで声を上げられなかった人たちの声も聞こえるようになった。タイもスマートフォンの普及率が高い上に、国民の大半がFacebookかLINEのアカウントを1つ以上持っているほどだ。奴隷のような存在だった貧困層も意見を言える社会になってきたのだ。  そんなこともあって、ここ最近のタイではいろいろなものに国民の目が光り、グレーだったものが白黒はっきりとするようになっている。権力に振り回されず、誰もがノーと言えるようになった。これまではタイで様々なことを早く終わらせたければ領収書や帳簿には載らない金銭の授受でクリアできた。交通違反、各種認可、証明書の発行など、賄賂でどうにかなったのだ。それが今は難しくなっている。  警察官曰く、「今はせいぜいスピード違反をもみ消せるくらいで、警察沙汰のすべてをカネで解決することはできない」のだそうだ。実際、この時代の流れを読んでいなかったのか、日本人が逮捕された仲間を賄賂で釈放させようと目論んで、一緒に逮捕されてしまったという事案もある。  ウォラユット容疑者の事故で死亡した警察官は、日本人も多く住むエリアの管轄署の下っ端だった。日本人経営店のみかじめ料を徴収する存在だったという話もあり、日本人在住者でこの警官と顔見知りだったという人も何人かいた。かつては、そんな下っ端の死亡事故はニュースにすらならなかったが、タイ国民の意識が変わりつつあるのだ。  ただ、いまだ詰めが甘い。今回、国際指名手配されたことはタイ人も知っていることではある。しかし、ちゃんと逮捕されるのか。逮捕されたとしても、タイで本当に裁判が行われるのか。そのあたりは不透明であるし、タイ人は逮捕されれば満足してしまう傾向にあり、裁判の行方まではあまり報道されない。知らずのうちに無罪、あるいは執行猶予つきの判決が出ている可能性もある。  国王も替わり、東南アジアの経済的結びつきが強くなって、特権階級だけが法を超越した存在である社会よりワールドスタンダードを取り入れていかなければならないタイ。この国が本当に変わっていくのかどうか。今回のひき逃げ事件にはそんなタイの正念場という一面もある。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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