「ひとみ」によるペルセウス座銀河団の観測。NASAのX線望遠鏡衛星が撮影した画像と、「ひとみ」の観測データとを組み合わせたもの Image Credit: Hitomi collaboration、JAXA、NASA、ESA、SRON、CSA
試験中の観測ながら、論文が「ネイチャー」に載るほどの新しい発見をもたらした「ひとみ」だが、それだけに早々に失われたことが大きく悔やまれた。
そこでJAXAは現在、「ひとみ」の代替機となる「X線天文衛星代替機」の開発に向けた検討を進めている。開発にあたっては、当然ながら事故の再発防止に向けて設計や運用などの大幅な見直しが行われるほか、観測機器の数を減らすなどし、開発期間や打ち上げまでの期間の短縮と低コスト化が図られている。
もともと「ひとみ」は、「天体をとても細かく見る能力」と、「同じ天体を同時に観測し、さまざまなデータを取る能力」の2つに長けていた。代替機では機器の数を減らすことで、このうち後者をあきらめ、前者の能力のみ受け継ぐことになる。そのため「ひとみ」より全体的な性能は落ちるものの、引き続き世界第一級の性能、成果が取得できる予定で、「ひとみ」で得られるはずだった成果を、できる限り早期に取り戻すことが期待されている。
この代替機の打ち上げは2020年度に予定されており、すでに「ひとみ」の開発で協力したNASAや欧州宇宙機関(ESA)からも、続けて協力が得られることになっている。
X線で宇宙を観測する「X線天文学」の分野は、今から約50年前に始まり、日本は世界の中でもトップレベルの実績をもつお家芸でもある。「ひとみ」やその代替機の開発に、日本が主導的な役割を果たし、そこに米国や欧州が協力するという形で参加しているのも、その実績の表れといえよう。
これから最も重要になるのは、「ひとみ」のような事故を繰り返さないことであるのはいうまでもない。前述のように原因が複合的なものだった以上、改善は困難な道のりになるだろうが、これを乗り越えなければ、今回の事故は本当の意味で終わりを迎えることはなく、そして代替機はもちろん、今後のJAXAの衛星開発も立ちいかなくなってしまうだろう。
そしてその先に、代替機によって「ひとみ」で得られるはずだった成果を手に入れ、これから先も日本がX線天文学の分野で主導的な役割を果たすためにも、代替機の開発と打ち上げ、そして観測を、なんとしても成功させる必要がある。「ひとみ」が見せるはずだった、そして代替機が見せるであろう光景は、宇宙の歴史と進化の謎に迫る手がかりになり、日本のみならず人類の科学の未来を切り拓くものになるに違いないのだから。
X線天文衛星「ひとみ」の想像図。代替機では機体の後ろに見える尻尾のような部分の観測装置を搭載しない Image Credit: JAXA/池下章裕
<取材・文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
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【参考】
・ASTRO-Hプレスキット(
http://fanfun.jaxa.jp/countdown/astro_h/files/astro_h_presskit.pdf)
・JAXA | X線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」異常事象調査報告書B改訂等について(
http://www.jaxa.jp/press/2016/06/20160608_hitomi_j.html)
・X線天文衛星ASTRO-Hの喪失を超えて(宇宙科学研究所 所長 常田佐久)(
http://www.isas.jaxa.jp/outreach/announcements/files/astro-h.pdf)
・意外に静かだったペルセウス座銀河団中心の高温ガス | 宇宙科学研究所(
http://www.isas.jaxa.jp/topics/000282.html)
・X線で宇宙を見る X線天文衛星代替機 X-ray Astronomy Recovery Mission(
http://www.isas.jaxa.jp/outreach/events/opencampus2017/leaflet/leaflet/6-1.pdf)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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