山口:極めて目的合理的なモデルのように思えますが、難易度はそうとう高いのではないでしょうか?
須田社長
須田:一点集中していたほうが、つらそうだけれども楽です。理想としていることしかやらないので、そもそも楽しいわけです。経営はがんばり過ぎると、ろくなことはないんです。社員の息が詰まったら、業績は上がらない。だから、経営者はいいかげんなくらいなほうがいいと思います。ある程度統制が効いているけれど、いいかげん、良い加減力が大事だということです。
山口:そう考えて、実践できている経営者は極めて少ないですね。つい、命令したくなることはないのでしょうか。目に余る出来事に直面して、社員を叱責したくなることもあったのでは?
須田:私の場合は、自分の考え方を、社員に押し付けようとは思わないんです。現場のことは社員が一番わかっている。社員の考え方に一理あるのではないかと思う。だったら試してやってみたらよいと思うだけですね。
ただ、できないのに、できるふりをしていることだけは、許容しません。それさえはっきりさせていれば、あとは、自由に考え、行動して、成長していければよいと思っています。
山口:働き方改革において、20時消灯をはじめとする一律の枠組みにはめようとする施策が横行していますが、特に自律裁量のモチベーションファクター(意欲の源泉)をもつ社員にとっては、逆に働く意欲を減殺させ、生産性を低下させるのではないかと危惧しています。
須田:働き方改革は、時短だけではできない。自らの能動的な取り組みが不可欠です。しかし、時短は、現在の状況では、やったほうがいい。
当社では、「8 to 8」の取り組みをしている。朝8時から夜8時までの間しか、Eメール送ってはダメというルールをつくりました。時間外にメールが来たら緊急案件ということです。社員も喜んでいるし、私自身も生産性が上がったと自覚しています。
人間の体は、もとより暗くなったら活動しないという前提でつくられています。しかし今日のオンライン化されたビジネス環境では、24時間働こうと思えば働けてしまうんです。
24時間と言わずとも、時間制限を付さずに働いたら、頭を休める暇もなく、不健康な状態に陥り、ストレス耐性は格段に弱まってしまいます。学習する暇もない、ストレス耐性が弱い状態で仕事を始めると生産性が上がらない。切れる刀を使い続けるには、切ってばかりいてはダメで、十分に刀を研ぐ時間が必要だと思っています。
山口:なるほど、自律裁量に富んだモデルを実現しているからこそ、時間制限が有効に活きているんですね。自律裁量型ビジネスモデルに最も踏み切った経営者だと思えてなりません。退路を断つ経営がそれを実現させているのかもしれないね。
須田:企業のミッションを決めるとおのずとやるべきことが見えてきます。そして、社員が自ら考え、行動し、成長することを支援していれば、経営者ががんばらなくても、自然と行くべき方向へ行く。社長業も20年以上やってきて、それがやっとわかってきました。