観光都市なのに「買うお土産」も「買う場所」も少なかった!
奈良市といえば、観光都市でありながら京阪神の他都市と比較して特別有名な「銘菓」や「地元の味」が思いつかないという人も多いのではないだろうか。
「奈良の味」として連想される「そうめん」や「わらび餅」、「柿の葉寿司」は本来奈良市内の名物ではない。中心部には鹿サブレや和菓子、プリンなどを売り物にする店もあり、近年は少しずつオシャレで美味しい店も増えてきたのは確かではあるが、そうしたものの多くは京阪神の「観光ライバル都市」においても食べることができる定番のものである。
また、中心部の土産品店街には新しい業者が新規参入しにくいという側面もあり、古くからあまり品揃えの変わらない店舗が中心で、観光スポット近隣の好立地には意欲的な店舗が新規出店することが難しいという現状もある。くわえて、修学旅行生が多い土地柄もあって、一等地で小中学生向けの面白Tシャツやキーホルダーなどを中心に売る店は複数あるものの、近年急速に増えつつある外国人観光客の需要をつかんでいるとは言い難い現状だ。しかも、こうした土産品店は主な寺院の拝観時間が終わるとサッサと店じまいしてしまうところが殆どであり、こうした奈良市中心部の「大仏の集客に頼りっきりで改善をおこなう姿勢がない店も少なくない」という状況は「大仏商法」とさえ呼ばれている。
奈良市中心部のアーケード商店街
さらに、奈良市中心部では「掘り返せば何処からでも遺跡が出る」ために大型商業施設の建設が難しく、競合店が少ないこともこの「大仏商法」に拍車をかけている。
誰しもが旅行中や出張中に駅ビルや地元のデパートなどでお土産を買ったりご飯を食べたという経験があろう。しかし現在、奈良市内で唯一の百貨店は郊外型百貨店の「近鉄百貨店奈良店」のみ。かつては中心部にも「マイカル奈良ビブレ」などの大型商業施設はあったが、すでに全てが撤退・閉店しており、中心部でまとまった商業空間といえばJR奈良駅の高架下くらいで、観光客がちょっと休憩できるようなレストラン街やフードコート、充実した土産品売場を備えた大型店は現在1つも存在しないのだ。
こうした状況は、実際の奈良観光に対する評価にも表れている。例えば、産官学連携のまちづくり団体「奈良のむらづくり協議会」が2009年の神戸~奈良間の私鉄電車直通運転開始を機に奈良市を訪れた兵庫県民334人を対象におこなった「奈良観光の評価に関するアンケート調査」によると、奈良の「寺社仏閣/史跡公園/博物館」に関しては84%もの人が、そして「見どころの多さやまちの雰囲気」に関しては44.9%の人が「神戸よりも奈良のほうが上」と回答したのに対し、「飲食店・土産品店」の内容については58.1%の人が「奈良よりも神戸のほうが上」と回答。
とくに、「飲食店・土産品店」については、「店に個性がない」「奈良独自の飲食物が少ない」「オシャレな店が少ない」という声が複数見られたほか、さらに「デパ地下がない」「買い物するところや喫茶店自体が少ない」ために不便だったとする回答もあったという。
日本を代表する観光都市として知られている奈良市。しかし、観光都市であるからこそ、観光客からの目は厳しいものがあったのだ。
図:兵庫県民による奈良観光と神戸観光の比較評価
(「奈良のむらづくり協議会」の調査を基に作成。価格に関しては凡例の「神戸が上=神戸が安い」「奈良が上=奈良が安い」に対応する)