味わい深い闘いをする選手たち
ふだんはクリーンセンター勤めの公務員が、町を汚す怪人を倒すため変身して立ち向かう。マンガでもアニメでもゲームでもない、本当の話だ。ローカルプロレス団体で実際に起きた話だ。
今回紹介するのは静岡県沼津市を拠点とするローカルプロレス団体「沼津プロレス」。代表はフリーアナウンサーの高橋裕一郎氏。2004年からコミュニティラジオ局コーストエフエムでプロレス・格闘技番組『格闘ラジオ・ゴングで飛び出せ!』を続けている。
同番組にバークリー音楽大学卒業と異色の経歴をもつレスラー・矢口壹琅(やぐちいちろう)がゲスト出演したことがきっかけで、沼津市にプロレス団体を作る構想が生まれた。
そこでアイデアを沼津市主催のビジネスプランコンテストに出品。独自性かつ地域性の高さが評価され、優秀賞を獲得。正式に沼津市の後援を受け2006年9月に旗揚げ戦を開催し、現在にいたる。
ローカルプロレスといえば、ご当地色あふれるキャラクターは欠かせない。その中でも特に面白い「沼プロ三銃士」を紹介しよう。
まずは冒頭写真の「お茶戦士カテキング」。皇室献上茶の栄誉を3度受けた沼津茶を由来とするマスクマンだ。ルチャ・リブレならぬ、お茶リブレで闘う、緑が目にまぶしい人気選手だ。
ヒラキング
「お魚戦士ヒラキング」。沼津市はアジ干物の生産量が全国1位。その干物をモチーフとした選手だ。魚モチーフの選手は少なくないが、魚の加工食品がモチーフなのは極めて珍しい。
⇒【写真】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=150329
みかん戦士寿太郎
「みかん戦士寿太郎」。由来は沼津市西浦で栽培されている寿太郎みかん。収穫後ひと月以上寝かせて味わいを熟成させたブランドみかんと同じく、寝技を中心とした重厚なファイトスタイルが特徴だ。
エース・駿河永悟。拙著『ローカルプロレスラー図鑑+2016』より
個性豊かな選手の中に、ひとりだけ素顔の選手がいる。冒頭に述べた公務員レスラーが彼だ。本名は伊東永悟。東京のオリエンタルプロレス(解散)でデビューするが、負傷のため引退。故郷・沼津に戻り、公務員として暮らしていた。
プロデューサーの矢口が伊東へ復帰を打診したところ、伊東は快諾。沼津プロレス所属選手として復帰が決まった。沼津周辺地域の旧名からとり、リングネームを「駿河永悟」としての再デビューだ。
懸念は体力面だったが、駿河はプロレス引退後ベンチプレス競技者として活動しており、体格は引退前より大きくなっていたため、復帰に問題は無かった。ちなみに駿河は全日本選手権3連覇や、世界マスターズ大会優勝など華々しい成績をもつトップベンチプレッサーでもある。
公務員のためボランティア参戦だが、市の公認を受けておりコスチュームには沼津市章が施されている。
筆者が観戦した大会では、駿河は町を汚染しようとする「毒毒生成物・大王キシン」と、様々な被害を起こす「沼津の害虫・ブラックバーミン」と対戦した。
駿河の勤め先はクリーンセンター。レスラー・駿河永悟にとっても、公務員・伊東永悟としても負けられない相手だ。駿河は反則攻撃に苦しめられるものの、耐え忍んで反撃。家族と市民の前で見事逆転勝利を飾った。
一度は夢を諦めた男が故郷でヒーローとして蘇る。ファンタジーのようなリアルストーリーがそこにあった。
駿河のイラストが描かれたコラボ自販機