第二の質問が、「うまくいったことは何ですか」という質問だ。誰しも、失敗したことは話しづらい。成功したことの方が、一般に、口は軽くなる。まずは、うまくいったことから質問することが鉄則だ。
マネジャーとメンバーのこれまでのコミュニケーションの仕方によっては、メンバーが「またダメ出しされるに違いない」と先回りして、第一の「やってみてどうでしたか」の質問の後に、すぐダメだった事例を答え始めるケースがある。そうした場合には、ダメだった事例の話は聞いた上で、「うまくいったこともあるだろう」という第二の質問を投げかけ、軌道を戻すことが大切だ。メンバーがダメな事例を話し始めたからとって、ダメ事例への対応の会話に流れて行ってしまっては、コーチング面談は成立しない。
第三の質問が、「うまくいかなかったことは何ですか」という質問だ。「うまくいったことは何ですか」という第二の質問の後でさえ、この質問への切り替えには工夫がいる。「うまくいかなかったことは何ですか」という質問の仕方によっては、メンバーにストレスを与えて、メンバーの口を閉ざしかねない。
演習の中で実演された、第二の質問のモデル話法としては、「どんなにすばらしいパフォーマンスを挙げている人でも、さらに改善したい点はあるものだと思うが」というような前置きをしたり、うまくいったことの話を聞いた後で、「そのようなすばらしい取り組みの中で、壁に直面したり、ストレスを感じたりしたことはありますか」という事例がある。
コーチング実践に慣れていないマネジャーにとっては、このあたりから、指導をしたくてうずうずする自身の気持ちとの葛藤が生じる。その葛藤をコントロールしながら、指示だしをしないで、さらに第四、第五の質問をする。「改善したいことは何ですか」、「サポートを得たいことは何ですか」である。
助言をするのは、第五の質問の答えを聞いてからだ。それも第五の質問の答えに応じて、それに沿って、「では、このような支援をしよう」、「では、このような取り組みをマネジャーとしてもサポートしながら実施しよう」、「では、サポート得たいことのそのままではないが、〇〇のような形であれば支援できると思うので、それでもよいか」というように、合意形成していくのだ。
これらの5つの質問を繰り出すことができるようになれば、コーチングを実践しているということと同義だ。グローバルビジネスパーソンは、たいてい、この5質問を繰り出してくることに気付いている人も大いに違いない。
※分解スキル反復演習型能力開発プログラムは、山口博著『
チームを動かすファシリテーションのドリル』で、セルフトレーニングできます。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第44回】
<文/山口博>
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを引き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある