タイは多民族国家でもあり、また宗教も仏教だけでないので、日本とは違った雇用の難しさは確かにある
タイには日系企業が1783社あり、在留邦人者数は70337人がいる(外務省発表「海外在留邦人数調査統計」2016年10月1日時点)。そのうち民間企業関係者本人が32841人で、大半がいわゆる駐在員や現地採用者と呼ばれる身分になる。
最近は中期出張などで事前にタイに長く滞在したり、元々タイが好きだという人も増えて、タイで働くことへの戸惑いは、初めての赴任でもそれほど強いものではないようだ。しかし、タイで働く日本人の中にはタイ人の同僚や部下に対して不満を持つ人も少なくない。
愚痴の中でよくあるのが「タイ人は長く続かない」というもの。
タイ人は働くことに関してかなりドライに考えている。日本人のような愛社精神、次の就職への有利・不利を考えることはなく、わずか1000バーツ(約3000円)でも額面が上がるのであればすぐさまそちらに転職してしまうことも少なくない。
タイ人男性チャチャイさん(43歳)に話を聞いた。彼は日本の大学を卒業して日本語ができることから、日系企業を転々としている。
「給料が少しでも高いところで働きたいですし、環境を変えるために5年をめどに転職しています。いつかは田舎に帰ってゆっくり暮らすつもりなので、会社でスキルを上げることは考えていません」
さらに、チャチャイさんの言葉からもわかるように、タイ人は誰しもいつかは生まれ故郷に帰るつもりでいる。日本人の「畳の上で死にたい」に似た感情が、特に地方出身者は強いのである。会社経営者であろうが風俗嬢であろうが、いつかは田舎に帰って余生を過ごすことを望んでいるのだ。畑仕事をするかもしれないし、雑貨店を開くかもしれない。いずれにしても田舎の暮らしには会社員のスキルは不要、というわけだ。
ある意味では合理的な考え方をしているとも言える。長く続ける気があるかないかではなく、将来的に不要なスキルを身につける気はなく、少しでも給料が高い方がいいというだけのようだ。