IT化の大波に埋もれ取り残される町工場。今後の日本のモノづくりを支えきれるのか

町工場と大手企業の情報格差はますます広がる

 こうした「雑務」に追われながらIT化へ進み出した町工場の中には、「時間、コスト、労力をかけてどこまでIT化させるべきか」、「IT化が果たして本当にいいことなのか」といった、消極的な思いを抱き続ける経営者が少なくない。  呼べば全員が振り向くような小さい工場には、メールでのやりとりはほとんどいらないし、図面や互いに共有するべきデータなども、電子化してパソコンで管理するより、紙ベースでカレンダーの横に貼っておいた方が断然スムーズである。  大手以上に「ひと対ひと」のコミュニケーションが現場の雰囲気に直結するところ、そこに社内をIT化することは、かえってコミュニケーション不足につながり、結果的に仕事に影響することにもなりかねないのだ。  各社が小さくとも、数と技術のある町工場は、「モノづくり日本」を下支えしている。そんな彼らとどのように情報共有していくかは、いまや製造大手企業が抱える大きな課題にもなっている。しかし、「経験一筋」でやってきた町工場にとってIT化は、メリットとリスクのバランスをよく考えて導入しなければならない複雑な問題で、大手と町工場には大きな温度差があるのが現状だ。  次回詳しく述べるが、近年、製造業界の大手企業周辺では「IoT化(モノのインターネット化)」の大風が吹き始めており、町工場と大手企業の「情報格差」は、今後ますます広がっていく傾向にある。  この大風の中、日本の製造業界は今、国内に埋もれかけている町工場の技術を守るべく、本格的な打開策を見出す時に来ているのかもしれない。 <文・橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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