日本ではなぜ美術館がデートスポットにならないのか?

美術館が人を惹きつける

 スペインにはかつて鉄鋼で栄えた屈指の工業都市・ビルバオという町がある。鉄鋼業の衰退とともに町は一時寂れたが、経済活性化の一環としてグッゲンハイムという有名美術館を誘致することによって見事、人気観光地として再生している。美術館の建物が斬新なデザインで有名だが、さらに閉館時間は平日でも夜8時で好評だ。訪れる観光客は週末だけではないからだ。そこまでしなければ観光戦略としては意味がない。  またニューヨークの近代美術館では夏になると、夜、中庭でジャズの生演奏を楽しむ人々で賑わう。単に絵画の鑑賞だけにとどまらない、エンターティメントがあるのだ。楽しいミュージアムショップとともに集客ビジネスとしての大事な要素だ。  日本にも東京にある民間美術館で平日の夜9時、10時まで楽しめるところも出てきた六本木、渋谷といった立地の特色を活かした経営戦略だろう。しかし地方の公立美術館では硬直的なお役所仕事がほとんどだ。  そういう中で異色なのが長崎県美術館である。公立美術館としては異例の夜8時閉館で、館内にある運河を見下ろすカフェではワインなど楽しむカップルの姿もある。美術愛好家からは多少抵抗もあったかもしれないが、「敷居を低くして、人の集い、くつろぐ場所」を明確に目指した結果だろう。  美術館、博物館、コンサートホールなどまだまだ十分活かされていない資産は転がっている。特に夜という都市の魅力を高めるうえで大事な時間帯だ。それが活かされていない原因はお役所仕事と「美術館とはこういうものだ」という固定観念だ。夜だけはBGMが流れる中でグラス片手に絵を鑑賞する。そんな型破りな美術館があってもいいのではないだろうか。柔軟な発想でシステムを見直すだけでもっと集客ビジネスとして活きてくる。 【細川昌彦】 中部大学特任教授。元・経済産業省。米州課長、中部経済産業局長などを歴任し、自動車輸出など対米通商交渉の最前線に立った。著書に『メガ・リージョンの攻防』(東洋経済新報社) 写真/Matt Haggerty
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