ただ、現在は多くの痴漢事件にいて被疑者段階では国選弁護人が雇えない可能性が高い。もともと国選弁護人というのは、実際に行われる裁判でカネのない被告人に弁護人をつける制度である。ところが起訴前は被告人ではなく“被疑者”なので、法的には国選弁護人を雇うことができなかったのだ。
しかし、法律に詳しい弁護士のアドバイスというのは、起訴前こそ必要だ。被疑者段階で、すでに警察・検察に供述調書を取られてしまった場合、起訴されてから弁護人がついても、もうどうしようもない状態だったという判例が山ほどある。
そうした被告人(被疑者)の不利を改善するために“被疑者国選弁護人制度”が生まれたのは、2004年と比較的最近の話になる。この被疑者国選弁護人制度は、被疑者の段階で国選弁護人を雇えるというモノだが、条件がある。それは、
『裁判で下される刑罰が死刑か無期懲役、あるいは懲役3年以上であること』
というモノだ。
痴漢の容疑には「強制わいせつ罪」と、各自治体の定める「迷惑防止条例違反」の2種類がある。もしかけられた容疑が強制わいせつ罪なら、予想される量刑は6月以上10年以下の懲役なので、被疑者国選弁護人を雇う資格があるわけだ。ところが、痴漢で強制わいせつ罪を問われるような事件というのは、相当悪質な痴漢だった場合である。
多くの痴漢事件は、服の上からいろいろと触る程度のモノであり(それでも大きな問題なのだが)、問われる罪状は迷惑防止条例違反になる。この場合、予想される最高の刑罰は、懲役であったとしても6か月(初犯の場合)なので、国選弁護人制度が使えないのだ。
ただ、この状況も来年から変わることになる。2016年に刑訴法が改正され、2018年6月までに「全ての身柄拘束事件で、被疑者国選弁護人制度が使えるようになる」ことになっているのだ。
これはすでに国会で可決され、現場での施行待ちの状態なので、2018年の6月以降は迷惑防止条例違反でも、国選弁護人を使えるようになるはずだ。もっとも“当たりハズレ”のリスクは変わらないので、そこのところはよく考えたほうがよい。次回は、自腹を切って雇う弁護士が“私選弁護人”について述べたい。
<文/ごとうさとき>
【ごとうさとき】
フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『
逮捕されたらこうなります!』、『
痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中