さて、ここまで痴漢冤罪に巻き込まれた場合に想定される事態について述べてきた。痴漢に間違われてしまって、ヘタに逃亡してホームから線路に飛び込んだりするなどしない限り、これ以上の処分や刑罰を警察や検察、あるいは裁判所から受けることはないだろう。
また、日本の刑事事件には「当番弁護士」という制度がある。これは刑訴法に関して知識のない一般人が、初期段階で警察に変な言質をとられて、不利な立場に陥ってしまうのを防ぐため、全国の弁護士会が身柄拘束をされてしまった被疑者を対象に1回だけ無料で接見(面会)に来て相談に乗ってくれる制度だ。
逮捕・勾留というのは身柄の自由を奪われるだけでなく、外部と連絡をとることにも大きな制限を受ける。本来、こうした身柄の拘束は住所不定の被疑者が逃亡を図ったり、用意周到な知能犯が証拠隠滅をしないようにする措置である。
とはいえ、身元もしっかりしているサラリーマンが逃亡するなんてことはまずありえないし、衝動的な犯罪である痴漢事件で隠滅するべき証拠などない。近年はその点を理解して勾留を却下する裁判所も増えてたが、それでも100%ないとはいえない。ただ、そんな身柄拘束に抗議して、身柄の解放を要求する法的手続きも実在するので、頭に入れておきたい。
痴漢冤罪は都市部で通勤通学をする人にとっては、常にその身に降りかかる怖れのあるものである。冤罪ならば当然初犯扱いになるわけで、であれば、予想される刑罰は数十万円の罰金である。痴漢の疑いを掛けられただけで、本当に人生が終わってしまうようなことはない。くれぐれを冷静さを失わず、慎重に対応しよう。
<文/ごとうさとき>
【ごとうさとき】
フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『
逮捕されたらこうなります!』、『
痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中