短時間でダメージを回復する必要があった忍者。彼らが編み出した方法とは?
デスクワークによる肩こりや首の疲れ、外回りによる筋肉疲労がなかなか回復できずに、悩んでいる人も多いはずだ。とはいえ、そうそう整体やマッサージに通う時間もなく、きちんとした施術を受けるにはまとまったお金も必要になる。
そんななか、いにしえの忍者が“ある方法”を用いてたったの15秒ほどで疲労を回復させていたことをご存じだろうか?
いつしか、ビジネスマンが「企業戦士」と揶揄され始めて久しいが、いにしえの「忍者」もまた、お上に仕える者として同じく肉体の悩みを抱えていただろう。映画や漫画では、剣をまじえて敵と戦う姿ばかりが取りざたされるが、忍者の本来の任務は諜報活動。潜入先から無事に情報を持ち帰ることが主な仕事であった。そのためにはいかなる傷や疲労も短時間で回復させる必要がある。そこで編み出されたのが、日本酒による指圧術であった。
その方法は、人肌に温めた少量の日本酒を正しいツボの位置に塗り、15秒ほどさすることで、炎症や不調が瞬く間に治まるというもの。日本酒にはアミノ酸やペプチド、有機酸、酵母菌、ビタミンなど約100種類もの栄養素が含まれており、マッサージの効果を最大限に引き出すことを先人たちは知っていたのである。
それが現代になって知られた経緯は、甲賀流忍術14世であった「藤田西湖」氏の存在にまで遡る。藤田氏は、幼少時より家伝の忍術を数々の修行を経て継承、その能力と技術を諜報活動に使っていたことから「最後の忍者」とも呼ばれている人物である。
藤田氏は、諜報・防諜などの秘密戦に関する教育や訓練がなされていた大日本帝国陸軍の軍学校「陸軍中野学校」の創設準備段階より協力、開校後は教官として忍術や武術の指導に当たっていた。
ある時そこへ、小山田秀雄という青年が入学し、藤田氏から忍術全般の薫陶を受ける。
その後、小山田氏は諜報員として潜入した中国・上海で捉えられ、ひどい拷問を受けてしまう。そして「死ぬ前に希望があれば叶えてやる」と看守から言われた際、一杯の日本酒を所望した。そのコップ一杯の酒を使って、小山田氏は陸軍中野学校で習ったマッサージを自らの体に施して傷を回復させ、看守に当て逃げを食らわせて脱獄、無事に日本へ帰りついたのだった。
終戦後、小山田氏は治療家として日本各地を転々と渡り歩き、そうした中で名古屋の鉄工所の作業員たちの治療にも当たっていた。その鉄工所の社長こそが、のちにそのマッサージ法を世に広めることとなる右近克敏の父親だった。
右近克敏は小学生の頃から小山田氏の助手を務めて治療を覚え、20代で名古屋に「千代田治療院」を開業。アントニオ猪木を始め数多くのプロレスラーや患者の治療にあたった。その秘法は武術家たちへと受け継がれ、現在は短期間で傷や痛みを修復しなければならないアスリートやスポーツ選手たちの間で、必要不可欠な治療法として活用されているのである。
そのマッサージ法とは純米酒を症状のある患部周辺やツボにつけ、軽く圧をかけながらさするという手法であった。
数秒ほどさすっていると、患部にコリコリとした触感の小さな固まりが浮き上がり、さらにさするとその固まりがスーッと消えていく。すると、患部の痛みや症状がウソのようになくなるのだ。
右近氏のもとで7年間修業し、この酒マッサージ法を受け継いだ指圧師の芳原雅司氏は、瞬時に症状が改善される理由を次のように話す。
「マッサージ効果と日本酒の持つ効能の相互作用によるものです。日本酒にはアミノ酸や有機酸、ビタミンなど約100種類もの栄養分が含まれていますが、中でもアミノ酸の種類はグルタミン酸、アラニン、ロイシンなど実に豊富です。アミノ酸は、脳の神経伝達物質としての働きや、免疫機能の向上、動脈硬化の予防などにも役立つとされています。日本酒はまた、毛穴を開いて老廃物を排出する効果、筋肉痛や炎症をやわらげる効果にも優れています」