EUの資金で、フォイル川にかけられた橋
デリー旧市街の中心は城郭都市。7つ(当初は4つ)の扉に堅く守られ、幾度もの籠城戦に耐えてきた。内と外を冷徹に分けるその作りは、歴史的分断の象徴そのものだ。旧くはイングランドとの関係が深いプロテスタント系住民がこの中に居を構え、先住のカトリック系住民はその外で暮らしていた。現在ではこの城郭の中を含め、市内を流れるフォイル川西岸(シティサイド)はカトリック教徒で占められている。
プロテスタント系住民は、フォイル川を挟んだ対岸(ウォーターサイド)に固まっている。ウォーターサイドでは、赤・白・青の英国旗色のペインティングも散見され、そのアイデンティティを誇示しているかのようだ。現地に住む20代のミュージシャン、オーエン・ドネガン氏は、両地域を分断するフォイル川沿いにかかる橋を指差して、「この橋はEUがお金を出して、5年くらい前(正確には2011年)に完成したんだ」と説明してくれた。
この街の様子は、ドイツ人哲学者ゲオルグ・ジンメルの「橋と扉」というエッセイを想起させる。その中でジンメルは橋を、分かち隔てられた河の両岸に「精神が手をさしのべ、分離しているものを融和させ、一つに結びつける」ものと述べている。
「ピース・ブリッジ」というその名が示すとおり、フォイル川に架けられた橋は、カトリック系住民とプロテスタント系住民の物理的、視覚的、精神的な分離を融和させるために差し伸べられた、両者を結びつける象徴だ。EUという国際機関がイニシアティブをとって莫大な費用をかけてそれが建設されたことに、問題の根深さと和解への取り組みの真摯さの両面が表れている。つまりその分断と融合は単なる一地方都市レベルの問題ではなく、国家レベル、国際レベルの問題でもあることを示しているのだ。