文科省が検討する大学入試英語への「民間試験導入」が抱える課題とは?

A案、B案ともに抱えるデメリット

バイリンガル育成のプロである英語塾キャタル代表・三石郷史氏

「全面移行のA案では、英語試験の4技能化の改革が早く進むというメリットがあります。従来の『読む・聞く』だけの試験対策から、教育現場レベルで『書く・話す』ための英語力の強化が促進され、学生の4技能の向上に大きく貢献するでしょう。一方で、部分移行のB案の場合、英語入試改革のスピード感が落ちることは否めません。結局のところ入試が2技能のままであれば、習得の難しい「書く・話す」ための勉強のモチベーションは必然的に下がり、4技能の勉強をするインセンティブがなくなってしまいます。こうした状況を招けば、B案の部分移行にかかる4年間は、“英語改革の実質的な先送り“になるでしょう」  となれば、A案のほうが良さそうにも思えるが、全面以降に踏み切るにも相応の問題がある。 「民間試験のキャパシティーの問題があります。まず、候補として挙がっている『英検』は、準2級~2級レベルであれば多くの人が受けるレベルとしては適切ですが、“4技能”を測る試験としてはまだまだ課題を抱えています。4技能が正しく評価されるためには、配点が1技能に偏らず、均一でなければいけませんが、英検では「読む・聞く」の2技能に偏りがあるのが現状です。ではTOEFLはというと、これは4技能試験という点で、現状で最も優れている民間試験であることは間違いないです。私個人的には、いまの学生の皆さまに是非この試験にトライしてもらいたいと思っています。ただ、多くの人が受験するテストとしては、難易度が高すぎるという点が挙げられます。  CEFRによると、TOEFL iBTの72点以上で英検の準1級、95点以上で1級相当であるとされています。  TOEFLの難易度を少し落とした4技能試験というと、『TEAP』という民間試験もあります。これは上智大学と日本英語検定協会が開発し、2014年から実施されているもので、レベル感としては多くの受験生にとって最も現実的な選択肢であろうといわれています。しかし、まだ始まったばかりで、50万人の対応ができるかどうか疑問視され、面接を行う試験官の手配という大きな問題を抱えています。分かりやすくいうと、50万人の受験者をさばくために、5,000人の試験官が1日10人の面接をフル稼働でこなして、10日もかかる計算になります。これは現実的にかなりハードルが高いです。  TOEICでは『TOEIC SW』(Sはspeaking、Wはwriting)という試験が4技能に対応しています。これはコンピューターに向かって回答する形式のため多くの受験者にも対応可能で、一見良さそうにも思えるのですが、根本的な問題として議論すべき点があります」
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TOEICが抱える根本的問題
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