元女性トラック運転手「命、賠償額…ブレーキを踏む時は、あらゆることが同時に脳裏に浮かぶ」

ジェンガのように荷物を積む職人技の世界

 一般的に、トラックの荷台への積み込み作業は、ドライバー本人が行う。  箱車の場合は、1つひとつドライバーが手で積み込むことが多い。前回まで述べた通り、ドライバーの高年齢化が進む中、これらの業務は必然的に激務と化す。  ただ積み込めばいいわけではない。多くの荷物を荷崩れが起きないように積むには、かなりの技術を要する。同じ方向に積んでしまえば軽いブレーキ1つで荷崩れを起こすため、「ジェンガ」のように積み方を複雑化させ、さらにカーブでの遠心力や突風に負けぬよう、重いものを下にして低重心を意識しながら積み上げていくのだ。  平ボディのトラックの積み込みには、クレーンを使用することもあるため、これらの資格が必要になる。筆者も大型免許を取るのに伴い、クレーン免許や、玉掛け取得のための講習にも並行して通った。  運搬物1つひとつが重い場合が多いため、どの位置にその荷物を積んで固定するか、その後追加の荷物がどんなもので、どのくらいの重さのものを積むかを把握しながら作業をしないと、坂道走行中に運転席がシーソーの原理で持ち上がり、車がひっくり返るといった危険性も伴う。  このように、トラックが急ブレーキを踏んだ際の危険は、前にだけあるわけではない。どんなにしっかり固定しても、どんなに組み合わせて段ボールを積んだとしても、強く急ブレーキを踏めば、積み荷だけでなく、ドライバーの身にも危険が及ぶ。  トラックが空けている車間には、不測の事態に対処するための必要最低限の距離であることがある。高速道路での無理な割り込みや、無意味なブレーキは、誰にとってもプラスにはならない。  互いが帰るべき場所に帰れるよう、心にも車間にも余裕を持ってハンドルを握ってほしい。<文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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