世界が認めたショコラティエ、エスコヤマの小山進氏が語る、「超一流」を目指すために必要なこと

「超一流」に必要なこと

 自分のベストを常に厳しく追求する小山氏だが、だからこそエスコヤマに入社する新入社員の指導にも定評がある。 「研修はあえて先輩社員が担当することにしています。僕が前に出て喋るのは簡単。でもそれだけでは駄目。後輩に教えることは、先輩の勉強にもなります。新人研修であり、先輩の研修の場でもあるのです。そうした先輩にしても僕にしても、若い社員に対してときには厳しいことをいうこともあるでしょう。本当は誰だって嫌なことなんか言いたくない。言うには責任が生じますから。でもね、言いにくいことまでいってくれる、いい大人が周りにいるかは大事なことでしょう」  その思いは、単に新入社員に向けられているだけではない。兵庫県三田市のエスコヤマ敷地内にある「未来製作所」は、エスコヤマに訪れる人の子どものために、小山氏が創った施設だ。
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エスコヤマの広大な敷地内には小山氏の理念を表すようにさまざまな店舗、施設がある

「小学校6年生以下のお子さましか入ることができない洋菓子店です。オープン以来、多くの若い人材とともに働いてきましたが、『若い人たちの多くは、表現する力・伝える力が弱い』と思いました。だから僕は、『子どもたちが表現し、伝えることの楽しさを体感できる場』を作りたかった。子供しか入れない、大人立ち入り禁止の場所を創れば、中の様子を子どもたちから聞く他はない。大人が話を聞く姿勢を持つようになれば、子どもはもっと伝えることが楽しくなる。『中でどんなお菓子がつくられ、販売されているのか?』と大人がつい聞きたくなるような仕掛けを作り、子どもたちが表現する楽しさを自然と学べるようにしたのが未来製作所です」 「超一流」と言われるようになった小山氏。次世代の「超一流」を目指す若者にはどのような思いを抱いているのか? 「僕は、新入社員には、『隣の人の役に立つような人間になれ』と常に言っています。まずは周りの人に『この人と一緒に仕事していたら楽しい』と言われるようになれと。大切なのは、それを繰り返すことです。でもそれができないまま、大きな夢、遠すぎる夢だけあって、いきなり『超一流』を目指したがる。  まずは、自分ができないことを認めること。その上で、一つ一つ、遠すぎる夢ではなく、身近なところに立てた目標をクリアしていくこと。若い人には、自分がどうなりたいか、自分のことにもっと真剣に向き合ってほしい。そうすれば、必然的に取り組みの精度は上がっていきます。そうすることで一つ一つの仕事の質も上がってくる。やはり、最後にものを言うのはすべてにおいて『クオリティの高さ』です」 <取材・文/HBO取材班 撮影/井上周邦>
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【小山進】
1964年京都生まれ。2003年兵庫県三田市に「パティシエ エス コヤマ」をオープン。
「上質感のある普通味」を核にプロフェッショナルな味を展開し続けている。フランスの最も権威のあるショコラ愛好会「C.C.C.」のコンクールでは、2011年の初出品以来、6年連続で最高位を獲得。また、インターナショナル・チョコレート・アワーズにも2013年より4年連続で出品。
2016年のアメリカ&アジア太平洋大会では、金賞を8品、銀賞を21品、銅賞3品と4年連続で多数の受賞を果たすなど、世界的なショコラティエとしてその活動の幅をますます広げている。