――企業や団体で行われている研修が、「理論は学んだが、ビジネスに役立てることができない」「理屈はわかったが、行動で再現できない」ということをしばしば聞きます。
山口:リブ・コンサルティング組織開発コンサルティング事業部が実施した、組織開発・人材開発に関する全国意識調査結果によれば、企業にとっての人材開発の目的は業績伸展(51.1%)、社員にとっての目的はパフォーマンス向上(55.1%)です。にもかかわらず、企業で実施されている研修が業績伸展に役立っているという回答は39.4%、個人のパフォーマンス向上に役立っているという回答は39.9%に過ぎないことからもそれがわかります。
藤村修●あしなが育英会副会長、元内閣官房長官。学生時代から奨学金募金活動に参加。2013年の政界引退後は、主にアフリカ遺児高等教育支援事業に取り組むなど、国内外人材育成を担う
藤村:机上の学習が不要だとは言いません。しかし、実践の場が、いかに人を成長させるかということには、誰も異論はないと思います。その実践的な教育の場が、今日の企業や団体において、極めて限定的になっているように思えてなりません。あしなが運動の下で実施してきた日本ブラジル交流事業も、ウガンダ事務所を設置してアフリカ・サブサハラ49か国の遺児を欧米の大学へ留学させる取り組みも、わが国の未来を築く日本ならびに世界の若者に実践教育の場を提供するものです。「国際性」の実践ですね。
山口:私は藤村さんが当時事務局長を務めていた日本ブラジル交流協会の支援を得て、ブラジルに一年間留学する機会を得た。文字通り人格が変わるほどの体験をしました。ものの考え方がかわったし、人との接し方が変わったと思う。私が「分解スキル・反復演習型能力開発プログラム」により行動変革プログラムにこだわり続けている原点でもあるんです。
――昨今では、「就活に有利だ」としてボランティアに従事する学生も少なくありません。そんな中で、募金活動に従事してきたあしなが育英会の学生は一般的な学生に比べて、どこが異なるのでしょうか?
山口:私が全国学生リーダーと演習した結果を見る限り、「自律裁量」と「他者協調」の意欲が抜きんでていました(参照:
HBO「やる気の源泉」を見極めてマネジメントすると集団はうまく回る!)。私は人それぞれがモチベーションを上げやすい領域を、「目標達成」「自律裁量」「地位権限」「他者協調」「安定保障」「公私調和」の6つに分類し、前三者を「牽引志向」と称し、後三者を「調和志向」と称しています。私の演習に参加した他の大学生が、牽引志向46.3%、調和志向53.7%であるのに対し、あしなが育英会の全国学生リーダーの方々は、牽引志向49.1%、調和志向50.9%と牽引志向が比較的高かったんです。これは、リーダーの典型なんですね。私は、彼我の差は該当募金経験の有無なので、私はこの結果の差は、街頭募金活動の経験の賜だと確信しています。
藤村:街頭募金活動は、道行く市民の方々に募金を呼びかける活動です。立ち居振る舞いをどうするか、視線をどこに投げかけるか、どの市民の方に、どのような第一声をかけるか、どのように会話するか、募金していただいた後にどのような言動をとるか、これほど実践的な場はないでしょう。そして、千差万別の市民の方に、賛同していただけるかどうかという明白な結果が詳らかになります。その結果をふまえて、また、試行錯誤していく。これほど教育効果の高い実践の場はないでしょう。