「のぐそ(野糞)」を続けて43年、その本質は「命の循環」

人間のうんこがコンクリートに変えられている

のぐその仕方をレクチャーする伊沢さん

 講演で「人間はうんこに向き合っていない」と伊沢さんは話す。1人のうんこは1日約200~300グラム。年間で最大約70~100キログラムに達し、日本全体では年間約1000万トンのうんこが出ている計算になる。それらは下水処理場で汚泥となり、堆肥として利用されるものもあるが、その一方で大半は焼却され、残った灰はセメントの原料になっている。 「コンクリートに姿を変えたらもはや生態系には戻らない。人間が自然と共生するには、他の生き物のごちそうになるうんこを生態系に戻す必要があります。のぐその本質は命の循環なのです」(伊沢さん)  講演では伊沢さんのうんこが土に戻る様子が映像で紹介された。直径約20センチメートル、深さ5~10センチメートルの穴に埋められたうんこは、その直後からさまざまな動物によって食われ始める。やがて2週間ほどで臭気が消え、さらに嫌気性分解や好気性分解などを経ながら、菌類や昆虫、植物などの「食料」として利用される。参加者はそれらの映像を食い入るように見ていた。  伊沢さんが唱える「のぐそ」は、メディアからは長いこと無視同然に扱われてきた。単にウンコを扱うから敬遠された、というだけではない。さまざまな批判にもさらされている。  のぐそは必然的に山林や緑地で行うことになる。しかしそれらはたいてい他人の土地であり、不法侵入罪や軽犯罪法違反といった法的なリスクをともなう。うんこを自然に返すのはいいとしても、日本に人口分の「のぐそ用地」を確保できるのか、との指摘もある。  これらの疑問や批判に対して伊沢さんは近著『葉っぱのぐそをはじめよう』(山と渓谷社刊)の中で回答、反論を行っている。「用地問題」に関しては、1人がのぐそ1回に要する面積は50センチメートル四方で足りるので、日本人が毎日のぐそをしても計算上は110キロメートル四方の森があれば十分と回答。  また法的リスクについても、「法律を厳格に適用すれば、命を返すためののぐそがいろいろな法に触れる犯罪行為になってしまいます」と認める一方、「現行の法体系は人間中心主義であり、自然との共生にはなじまない」との趣旨で問題提起もしている。
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拭き心地のよい葉っぱも多い
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うんこはごちそう

うんこから見えるいのちの循環