次に、感情の扱い方についてです。
よく学生さんから「どうすればオリジナリティーのある回答が作れるのですか?」という質問を頂きます。学生さん曰く、自分の過去の活動を志望動機などに落とし込んでも「どこにでもある」回答になってしまうというのです。この質問に対する私の解答は、自分の感情・行動・体験の解釈を回答に組み込む、というものです。
よくある失敗・克服体験の質問を例にご紹介します。
面接官:嫌なことでも成し遂げた経験はありますか?
応募者:はい、あります。
…(1)
就職活動の一環としてTOEIC(英語の試験)の勉強を始めました。最初はいやいやはじめた勉強でしたが、勉強を続けるうちに楽しくなってきたのです。勉強の仕方を工夫したのがその要因です。具体的に言いますと…中略…。
…(2)
この体験を通じて、嫌なことに思えてもやってみなければわからないこと、嫌なことでも本気になれる自分を発見しました。「まずはやってみる」、向き・不向きはそのあと考えるという姿勢が大切だと思いました。
…(3)
(1)は質問に対する直接的な答えや主張です。(2)は(1)の答えや主張をサポートするための具体例です。普通、学生さんは(1)(2)まではほぼ完璧に答えることが出来ます。しかし、これだとなかなかオリジナリティーがある回答になりにくいばかりか、面接官の心に響きません。
そこで、(3)の視点を組み込むのです。つまり、(2)に対して抱いた感情やその解釈を伝える、という視点です。
(2)の具体例にあたる体験は、そうそう特異な体験談は多くありません。
冒頭の学生さんの悩みの通り、誰もが似たり寄ったりになることが多いでしょう。しかし、ある体験に何を感じどう解釈するかは、人によって様々です。ここがオリジナリティーを発揮できるポイントであり、もっと言えば、どんな特異な体験ー世界一周旅行や海外ボランティアなどの特別な体験ーをしていても、ここがなければ、面接官から「君は結局、その体験から何を学んだの?」となりかねないのです。
ここでご紹介させて頂いたことは、就職活動中の学生さんや転職希望者の方々だけに限らず、営業マンや交渉に携わる方々にも役に立つ内容です。
自分の持っている情報を相手の微表情・感情の流れに沿って適切に出し入れする、よくある話・商材でも自分の感情や体験の解釈を加えることで魅力あふれる話や商材に変化させる、そんなことが可能になるのです。
次回は、面接官の立場に立ったアドバイスをご紹介したいと思います。
※本画像の権利は、株式会社空気を読むを科学する研究所に帰属します。無断転載を禁じます。
<文・清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマの監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。