ファルコン9の初の再使用打ち上げは、まったく危なげない、完璧な飛行だった Image Credit: SpaceX
今回の再使用打ち上げの成功は、たしかに宇宙開発や科学・技術の歴史にとっては大きな出来事ではあるものの、本来の目的である、宇宙輸送に革命を起こすための、あるいは人類の宇宙進出を実現させるための再使用ロケットという点で見れば、ようやくその挑戦が始まったにすぎない。
前述のように、第1段を再使用する場合の価格は10%引きであり、当初のコスト100分の1という目標からするとまだ高い。スペースXは最大で30%引きにできるとも考えているようだが、それでもまだ追いつかない。
実際のところ、コスト100分の1という言葉は、ある種のセールス・トークと捉えておくべきだろう。スペースXは、さらなるコストダウンを目指して、第1段以外の部品の回収や再使用も考えているが、それでも100分の1を実現するにはまだ足らず、機体のすべてを1000回、それも大掛かりな部品交換などをせずに再使用できるようになって、初めてコスト100分の1が見えてくる。
もちろん、たとえ100分の1にならずとも、3分の1でも2分の1でも安くなれば、宇宙業界にとって革命になることは間違いない。しかし「もうすぐ私たちが宇宙に行ける時代が来る」とまで考えるのは、やや気が早い(もちろん諦めるのもまだ早いが)。
再使用打ち上げに向けて準備中のファルコン9 Image Credit: SpaceX
もうひとつの問題は、再使用云々以前の、ファルコン9の信頼性である。ファルコン9はすべてが“新品”だった過去の打ち上げでも、2度失敗しており、成功率は約94%とあまり高いほうではない。さらにその失敗の影響で打ち上げが何か月も止まり、打ち上げスケジュールはずるずると遅れ、現在も回復はできていない。見切りをつけて予約をキャンセルし、別のロケットに発注し直した企業もある。
ファルコン9が安価になるのは良いことだが、ただしそこには「信頼性を損なわずに」という条件がつく。いくら安くても、失敗する確率が他より高いロケットに、高価な衛星の打ち上げを委ねたがる企業はまずない。
つまりこれからスペースXは、ファルコン9を高い頻度で打ち上げ続け、そして成功し続け、信頼性を回復させ、高いまま維持していかなければならない。そして同時に、その中に何度か再使用打ち上げを挟み、中古のロケットでも信頼性に問題ないということも示していかなければならない。さらなるコストダウンへの取り組みも、こうした信頼性を回復、維持し続けるための努力の上で進める必要がある。
スペースXにとって、これからロケットの再使用打ち上げを追求していくことは、これまでと同じか、それ以上に茨の道になるだろう。
しかし、コスト100分の1か、それに近い金額にならなければ、人類の宇宙進出が進まないのは事実であり、ロケットの再使用は、その解決策のひとつであることも間違いない。そして彼らは承知の上で、自ら茨の道を進んでいくことを選んだ。
スペースXと、彼らに続く他の企業の成功を願い、その先に宇宙旅行の夢を見ることは、そんなに悪い賭けではない。
スペースXは人類の宇宙進出を目指している。そのためには低コストなロケットの成功は必要不可欠となる Image Credit: SpaceX
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter:
@Kosmograd_Info
【参考】
・SES-10 Mission(
http://www.spacex.com/sites/spacex/files/finalses10presskit.pdf)
・Reusability: The Key to Making Human Life Multi-Planetary | SpaceX(
http://www.spacex.com/news/2013/03/31/reusability-key-making-human-life-multi-planetary)
・Background on Tonight’s Launch | SpaceX(
http://www.spacex.com/news/2015/12/21/background-tonights-launch)
・SpaceX says reusable stage could cut prices 30 percent, plans November Falcon Heavy debut – SpaceNews.com(
http://spacenews.com/spacex-says-reusable-stage-could-cut-prices-by-30-plans-first-falcon-heavy-in-november/)
・SpaceX to launch Falcon Heavy with two “flight-proven” boosters this year – SpaceNews.com(
http://spacenews.com/spacex-to-launch-falcon-heavy-with-two-flight-proven-boosters-this-year/)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
КОСМОГРАД
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