かつての再使用ロケットである「スペース・シャトル」。ファルコン9はシャトルとはまったく異なる仕組みで再使用されるが、もちろんそれには理由がある Image Credit: NASA
ロケットを再使用して低コスト化、というアイディアは、別に新しいものではない。宇宙開発の黎明期にあたる1960年代から考えられていたし、1981年には初の再使用ロケットである、有名な「スペース・シャトル」が開発された。
しかし、再使用を目指したロケットの多くは開発が頓挫し、スペース・シャトルも2011年に引退した。実はスペース・シャトルは当初、1回あたりの打ち上げコスト30億円という目標を掲げていたものの、結局は500~800億円ほどがかかり、再使用ロケットとしては失敗に終わった(もっとも、スペース・シャトルで多くの宇宙飛行士が飛び、さまざまな宇宙実験や国際宇宙ステーションの建設が行われた実績は、成功と言って良いだろう)。
マスク氏やスペースXは、スペース・シャトルの失敗は繰り返さないと語る。
たとえばスペース・シャトルは重く、複雑なシステムだったが、ファルコン9は極力シンプルに造られている。実際に帰還し、再使用される第1段機体は、宇宙まで飛ぶとはいっても、高度はともかくスピードはそれほど出ておらず、せいぜい宇宙に手が触れた、という程度である。だから帰ってくるのは、スペース・シャトルと比べるとそれほど大変なことではない。
その一方、ファルコン9は「垂直離着陸」という難しい技術に挑んでいる。スペース・シャトルは大気圏を滑空して滑走路に着陸するために大きな翼をもっている。しかし翼は打ち上げ時には単なる重りでしかない上に、長い滑走路も必要になる。回収にはもうひとつ、パラシュートを使うという方法もあるが、これもパラシュートが重りになる上に、風で流されると着陸場所がずれるし、着陸時に速度をゼロにできないため、衝撃も大きい。
そこでファルコン9は、エンジンを逆噴射させながら着陸する方法を選んだ。これは技術的には難しいものの、滑走路は不要で、しかもヘリコプターのように狙った場所に正確に、そしてゆるやかに着陸できる。逆噴射に使うエンジンは、そもそも打ち上げ時にも使うものなので、それほど無駄な負担にもならない。
スペースXはロケットの再使用を進めるにあたって、スペース・シャトルをはじめとする過去の”失敗例”を相当に研究したようで、スペース・シャトルのように、再使用するために複雑なシステムになってしまったという轍を踏まないよう、ファルコン9の再使用は、仕組みは軽くシンプルに、けれどもそのために必要な技術は、たとえ難しくても挑む、というはっきりとした方向性をもっている。
ファルコン9はスペース・シャトルとは違い、第1段機体だけが垂直に着陸するImage Credit: SpaceX
スペースXはまず、地上から高度数百mあたりまで上昇し、そのまま降下して着陸する簡単な実験機を造り、飛行試験を繰り返した。
その試験が一定の成果を出すと、続いてファルコン9が実際に人工衛星を打ち上げる機会を利用して、着陸や回収のための試験を繰り返した。つまり、実際には回収の必要がない打ち上げで、回収のための装備をつけて打ち上げ、試験したのである。
そして2015年12月、初めてとなる着陸と回収に成功。その後もたびたび失敗はあったものの、現在までに合計8機の回収に成功している。
今回の打ち上げに使われたのは、この8機のうち、昨年4月に回収した機体だった。機体は回収後、点検や整備を経て、今年1月にはエンジンを動かす試験に成功するなどし、ふたたびの打ち上げに向けた準備が行われた。
そして3月31日7時27分(日本時間)、この機体は2度目の宇宙へ向けて発射。順調に飛行して第2段を分離した。そして機体を制御しながら降下し、大西洋上で待ち構えていた船に舞い降り、ふたたびの回収もなしとげた。
ロケットの再使用打ち上げが成功したのは、スペース・シャトル以来約6年ぶりで、またファルコン9のように垂直に離着陸するようなロケットに限れば、世界初の快挙である。また今回、再回収にも成功したことで、今後3度目の打ち上げを行う可能性もあろう。
気になるのは今回の打ち上げにかかった費用だが、スペースXも、打ち上げを依頼した企業であるSESも、その金額については明らかにしていない。ただ、スペースXは以前に「第1段機体を再使用する打ち上げの場合、約10%の割引価格を提示している」と明らかにしており、今回もそれに近い数字だったか、あるいは初の再使用ということで、もう少し割引があった可能性もある。