昨年の北極星1号の発射と、今回の北極星2型の発射の成功は、北朝鮮のミサイル技術が、それもただ打ち上げるというだけでなく、より実戦向きの技術へと着実に進歩していることを示している。
もっとも、潜水艦からコールド・ローンチされた昨年の北極星1号も、そして今回の北極星2型の発射も、米軍は探知に成功しており、レーダーによる追跡と合わせて、発射地点も、どのように飛んだかも明らかになっている。したがって、コールド・ローンチによって準備の察知や発射の探知ができなくなり、知らない間にミサイルが撃ち込まれる、ということはないし、また日米韓がもつ迎撃ミサイルでの対処も十分可能ではある。ただし、探知や迎撃がしづらくなったのは確かであろう。
今後当面の懸念は、まず北極星のような固体推進剤のミサイルの量産にある。安定した品質で量産することが可能になれば、現在日本を射程に収めている液体推進剤のノドンに取って代わり、その脅威度は上がる。さらに、何発も同時に発射されることになれば、前述した固体ミサイルの利点も相まって、迎撃が間に合わなくなる危険もある。
もうひとつは、固体推進剤による大陸間弾道ミサイルの開発である。
現在、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルに使用可能なミサイルとして「銀河3号」(テポドン2)を保有しているが、発射準備に数日かかるため実用的ではない。また、KN-08やKN-14といった、移動式発射台から発射できる大陸間弾道ミサイルの開発も確認されているが、これらは中距離弾道ミサイルのムスダンから派生した液体推進剤のミサイルだと考えられており、テポドン2ほどではないにしろ、やはり発射準備に時間がかかる(もちろん、だからといって脅威であることに変わりはない)。
米国やロシア、中国は、固体推進剤を用いた大陸間弾道ミサイルを配備しており、今後北朝鮮の固体ロケット技術がさらに進歩すれば、同様のミサイルの開発、運用は可能になろう。そうなれば、「気付かれにくくすぐ撃てるミサイル」という脅威が、日本のみならず、米国本土まで及ぶことになる。
ミサイルに搭載される弾頭部分や、最も恐るべき核弾頭の開発とも合わせて、その動向にこれまで以上に注視する必要がある。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter:
@Kosmograd_Info
【参考】
・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第1報)(
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2017/02/12a.html)
・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第2報)(
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2017/02/12b.html)
・Pukkuksong-2 | Missile Threat(
https://missilethreat.csis.org/missile/pukkuksong-2/)
・KN-11 (Pukkuksong-1) | Missile Threat(
https://missilethreat.csis.org/missile/kn-11/)
・The Pukguksong-2:A Higher Degree of Mobility, Survivability and Responsiveness | 38 North:Informed Analysis of North Korea(
http://38north.org/2017/02/jschilling021317/)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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