それでは目の動きから嘘は見抜けないのか?ということですが、工夫次第で推定することは出来ます。
例えば、集中を要さない即断できるような答えにも関わらず、目がそらされたら、「おかしい」と考えることが出来ます。「この質問にそんなに集中する必要ある?」と思われたとき、相手が嘘をついているかどうか注意が必要です。
また個人のクセを利用して、右上・左上が推定に利用できないこともありません。人によっては目線がいつも右上に向かう、いつも左上に向かう、そうした傾向が個人のクセとして認めることができれば、利用可能性はあります。
しかし、本気で嘘を見抜こうとするならば、目の動きだけでなく、表情・動作などの非言語情報やストーリーの論理性・単語選択などの言語情報、そして嘘をつくのに負担を与える質問法など、総合的なスキルを習得する必要があります。しかしながら、そうしたスキルよりも最も大切なことがあります。それは、嘘を必要としない関係性、嘘をつかせないコミュニケーションを醸成する人間力です。それらの育成は科学ではなく、宗教や道徳の領域なのかもしれませんが。
職業上の特殊な事情がない限り、嘘を見抜く高度なスキルより、嘘をつかせない人間力を持っていた方が、幸せな人生を送れると切に思う今日この頃です。
(参考文献)
DePaulo, B.M., Lindsay, J. L., Malone, B.E., Muhlenbruck, L., Charlton, K.,&Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychology Bulletin, 129, p74-118.
McCarthy A, Lee K, Itakura S, Muir DW (2006) Cultural display rules drive eye gaze during thinking. J Cross Cult Psychol 37: 717–722.
Wiseman, R., Watt, C., ten Brinke, L., Porter, S., Couper, S-L.,&Rankin, C. (2012). The eyes don’t have it: Lie detection and neuro-linguistic programming. PLoS ONE, 7, 1-5. doi: 10.1371/journal.pone.0040259.
<文・清水建二>
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマの監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。