だが、この一連の事案は、受精卵にゲノム編集で遺伝子改変を施すような臨床試験が近い将来起きてもおかしくないことを示唆している。もしかすると、治療目的で子どもを遺伝子改変することは、10〜20年後には珍しいことではなくなっているかもしれない。
だが、忘れてならないのは、受精卵に遺伝子改変を施す場合は、子どもにインフォームドコンセントをすることができないということだ。何も知らされずに遺伝子改変人間となった場合、そのような子どもにはアイデンティティー・クライシスが起きてもおかしくない。
さらに、受精卵への遺伝子改変は、子孫代々に受け継がれることになる。いったん受け渡した遺伝子改変は、子孫を通して拡散してゆく。
我々は、このことについて、よく考えておく必要がある。将来、誰もがこの技術を使う当事者になりかねないのだから。
参考図書:
『ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか ゲノム編集の光と影』(イースト・プレス)石井哲也 著
『ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー』 NHKゲノム編集取材班
<文・堀川大樹>
【堀川大樹】
クマムシ博士。1978年東京都生まれ。2001年からクマムシの研究を続けている。北海道大学で博士号を取得後、NASA宇宙生物学研究所やパリ第5大学を経て、慶応義塾大学先端生命科学研究所特任講師。クマムシ研究の傍ら、オンラインサロン「
クマムシ博士のクマムシ研究所」の運営やクマムシキャラクター「
クマムシさん」のプロデュースをしている。著書に『
クマムシ博士の「最強生物」学講座』(新潮社)と『
クマムシ研究日誌』(東海大学出版会)。ブログ「
むしブロ」、有料メールマガジン「
むしマガ」も運営。