正義――。
小田原市の職員ジャンパーにもプリントされていた言葉だ。
確かに「不正受給」は悪い。詐欺罪に該当する場合もある。悪い行為を未然防止することは、「正義」ではあろう。しかし、現場の生活保護担当者は、あくまでも「法によって定められた手続きの執行官」であって、「正義の代弁者」でもなんでもない。あくまでも、生活保護法やその他の関連法令に則って、生活保護の審査・支給に関する手続きを進めるのが仕事だ。そこに、「正義」などの価値判断が入り込む余地などない。いや、むしろ、執行官がそうした価値判断を挟むことは危険ですらある。
だが、生活保護の現場ではこの「正義」が横行している。どの市町村でも、資格審査の席で担当者が持ち出すのは、申請者の収入状況や資産の有無など、法が定める客観的な指標ではなく、まずは、「働けるのなら働け」「甘えてはいけない」などの「正義」だ。
資格審査担当者が「正義」で申請者を「水際」ではねのけているのだ。全国的に横行している「生活保護の水際作戦」とはこのことに他ならない。支給開始後の家庭訪問や接見の場でも同じような「正義」が繰り返し受給者に押し付けられる。そしてそのたびに受給者は負い目を感じていき、スティグマを実感することになる。
そう考えると、「我々は正義。不正を見つけたら追及する。私たちをだまして不正によって利益を得ようとするなら、彼らはクズだ」とうそぶいていたのは、小田原市の職員だけではないことがわかる。目には見えないジャンパーを着て実務に当たる職員は、全国の市区町村に、いる。
<文/菅野完(Twitter ID:
@noiehoie)写真/時事通信社>
※菅野完氏の連載、「草の根保守の蠢動」が待望の書籍化。連載時原稿に加筆し、
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