「宇宙の探鉱夫」が生まれる? NASAが挑む金属小惑星に隠された謎と可能性

日本の小惑星探査機「はやぶさ」の想像図 Image Credit: JAXA

 ところで、一口に小惑星と言っても、どういう物質で形作られているかによっていくつかの種類がある。地球にもある岩石のようなものから、岩石の中に有機物(炭素を含む化合物)などを多く含む炭素質の小惑星もある。  そして今回、NASAの探査機が目指す「プシューケー」という小惑星は、鉄やニッケルといった金属でできていると考えられる小惑星である。こうした小惑星のことを、金属質を意味するMetallicの頭文字から「M型小惑星」と呼ぶ。  たとえば水星や地球、火星のど真ん中にある「中心核(コア)」は金属でできていると言われているが、M型小惑星はその原料になった、あるいはなりきれずに現在まで残っているものだと考えられる。  また、地球にはたびたび鉄の隕石、いわゆる「隕鉄」が落ち、かつては神聖視され日本刀に加工されるなどしているが、こうした隕鉄は、M型小惑星が他の小さな天体などとぶつかり、飛び散った破片が地球に落ちてきたものなのでは、と考えられている。

プシューケーの想像図 Image Credit: Peter Rubin/ASU

世界初のM型小惑星の直接探査

 M型小惑星は、まだ探査機が直接訪れて探査したことはなく(遠くから通りすがりに一度だけ観測したことはある)、地表はどんな姿をしているのか、どんな金属がどれくらいあるのか、内部はどんな構造なのかといった多くのことがまだ謎に包まれている。  今回、NASAの探査機「サイキ」が目指すのは、そのM型小惑星のひとつと考えられている「プシューケー」である。プシューケーは1852年に発見された小惑星で、火星と木星との間にある小惑星帯の中にあり、直径は210kmほどと見積もられている。  サイキは現時点で2023年の打ち上げが予定されている。打ち上げ、7年間の宇宙航行をし、2030年にプシューケーに到着。そしてプシューケーのまわりを周りながら約1年にわたって探査し、プシューケーの正確な姿かたちや、重力や磁場がどうなっているのか、どんな物質がどのように存在しているのかなどを探り、そもそもM型小惑星とはどんな天体なのかを明らかにする。そして、どうしてM型小惑星は地球のような惑星になりきれなかったのか、地球や火星などとの違いはなんだったのか、といったことを考える手がかりを得ることが期待されている。  開発費は約5億ドル(現在の為替レートで約583億円)で、これは「はやぶさ2」の開発費の約164億円の約3.5倍にもなる。こうして比べると、NASAの予算の潤沢さ、あるいは日本の少なさと、その中で世界第一級の成果を目指さなければならない大変さが際立つ。
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宇宙資源としてのM型小惑星
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