ローストビーフの次に業界が仕掛けるのは「やきとり」ブームか
東京・大手町「全や連総本店」の「ご当地食べ比べセット(1400円)
「そこで新たな動きがまた起きています。一つは『レアチャーシュー』。これはミシュラン1つ星を獲得した巣鴨の人気ラーメン店『蔦』の人気にあやかって半生のチャーシューを売り出そうという流れです。ですが、豚肉もすでにブランド豚が根付いているため仕入れ値はかなり高め。そこで、『やきとり』ブームを作る動きが出てきたのです」
確かに鶏肉はほかの食肉と比べても格段に安い。しかし、飲食業界のデータによると「やきとり専門店」は縮小傾向にあるようだが……。
「ひとえに『やきとり』と言っても、例えば、山口県ではガーリックパウダーを必ずまぶしたり、沖縄ではタレや塩に加えてニンニクや味噌など4種類の味を楽しめる。大手チェーンの居酒屋では、ささみチーズ味などの創作やきとりがありますよね。こうしたご当地やきとりが人気なのです」
10月に行われた「やきとリンピック」は2日間で7万5千人を動員した。まだまだ51万人を動員したB級グルメのような話題性はないが、『おとなの週末』や『東京カレンダー』などグルメ雑誌でも、徐々に特集が組まれるようになってきている。
「串焼きなら、鶏肉でなくても『やきとり』として売り出せる点がポイント。広辞苑にも串焼き肉全般を指す言葉として定義されてます」
ブラジル料理のシュラスコも串に刺した鮎も『やきとり』になる。これによって、仕入れ値の安い食材も自由にブランド化することができると言うわけだ。
「もちろん焼いた鶏肉も『やきとり』。愛媛県四国中央市では鶏もも肉の揚げ物を『やきとり』と称するなど独特の文化がある。今後はエゾシカを使った北海道・阿寒湖初の『阿寒やきとり丼』のように、ご当地ものの珍しい『やきとり』を求めるファンが現れるのでは」
とはいえ、完全にやきとりブームに移行すると考えるのは尚早だ。
「仕入れ値が安くなっても、串を刺す作業があるため他の業種よりコストや手間暇がかかるんです」
縮小状況にある業界内で唯一、売り上げを伸ばしている「鳥貴族」は、痛みやすい鶏肉の鮮度を保つために、注文が入ってから串打ちをしている。確かに、気軽に参入するのは難しい業種かもしれない。
【はんつ遠藤氏】
フードジャーナリスト、料理研究家。テレビや雑誌、書籍などでの飲食店紹介や、飲食店プロデュースなども行う。飲食店取材軒数は8500軒を超え、著書も多数。