労働者自身が、それぞれの早く帰る動機(理由)を持つ
3つ目の処方箋は、労働者自身が、早く帰る動機(理由)を持つことです。
いくら企業側が、長時間労働の減少をコミットし、労働生産性を評価する方法を作ったとしても、その新制度がうまくいくためかどうかの鍵は、最終的にはそれぞれの労働者にかかってます。
しかし、私が働く人たちを見ていて感じるのは、中には、残業を減らす=早く帰る動機(理由)がない人たちがいるのも、事実です。聞いてみれば色々な事情があります。家に居場所がない、単身赴任だから平日は遅くまでかかっても土日は休みたい、自分は気にしないで周りは早く帰ってもらって結構ですなどなど。しかし、周囲(特に上司)がこのような場合、部下は大変帰りづらいというのが多くの会社の現実=古い時代の日本文化だと思います。
一方、早く帰る動機(理由)があると、同じ労働時間でもその濃さが違うことを実感したことがある人も多いのではないでしょうか。例えば私の経験では、保育園に子供を迎えに行く働くママさんたちは、いつも効率よく集中して働いていると思います。
早く帰る動機(理由)は、趣味の時間でもいいと思います。早く帰ることができれば、平日でも趣味に興じることができる。そのような理由を、すべての働く人に持ってもらいたいものです。
残業を減らすために生産性を上げる。このための知識がない、スキルがない、という人もいます。この人たちには、必要な知識やスキルを提供するべきです。しかしその前に、全ての労働者自身に、それぞれの早く帰る動機(理由)を持って欲しいと思います。
武神健之氏
厚生労働省が’16年11月6日に行った過重労働解消相談ダイヤルには、712件と昨年の約1.5倍の相談が寄せられ、賃金不払残業の相談よりも、長時間労働そのものに関する相談が最多の340件だったそうです(:
参照)。
また、日本経済新聞社が’16年12月7日にまとめた「社長100人アンケート」では、経営者の約8割が企業の今後の課題として長時間労働をあげ、経営者の76.7%が「是正に着手した」と答え、「是正を検討」「すでに是正した」を合わせると96.5%という結果でした。具体的な取り組みの柱は、管理職の意識改革、残業の事前許可、ノー残業デーの設定、サービス残業の撤廃などでした。
労働力人口減少が避けられないなか、企業競争力の維持には働き方改革が急務です。企業も労働者も、対策を唱えるだけではなく、何か一歩でも進めることを実践して欲しいと願ってやみません。たとえ一歩でも前に進まなければ、答えには近づくこともできないのですから。
<TEXT/武神健之>
【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『
不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『
産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある