悪口に怪しげな噂話――職場ゴシップにはこう対処しろ
2016.12.25
噂好きの人は、どんな職場にもいるものだ。ゴシップが大好きで、他人の不幸を耳にすると目を輝かせる。その場のノリで、言ってはいけない内幕をしゃべり倒す。無神経きわまりない“おしゃべりすずめ”に出くわしたら、どう対処すべきか。
今回は池波正太郎の『鬼平犯科帳〈3〉』から打開策を探りたい。
歌舞伎俳優・中村吉右衛門主演のテレビ時代劇シリーズでも知られる本作。ドラマは今年12月に28年の歴史に幕を下ろしたが、来年1月からはテレビ東京ほかで初のアニメ版がスタート。ブラッドピットなどの吹き替えで知られる声優の堀内賢雄が主人公の“鬼の平蔵”を演じる。
「人のうわさほど狂うているものはない」
主人公・平蔵が懇意にする指圧師・中村宗仙。知る人ぞ知る腕前だが、近所では「縁の下には、どれほど小判が埋まっているやら……」と、まことしやかに語られていた。だが、平蔵は「人のうわさほど狂うているものはない」と取り合わない。
噂は元来、いい加減なものである。どんなに真実味があったとしても、うのみにするのはあまりに無防備。噂の主には“目の狂い”がある前提で、自ら裏をとる。慎重すぎるほど慎重に向き合えば、噂に振り回される不毛な時間も最小限ですむはずだ。
「われわれのことは、知る人ぞ知ることだ。かまわぬ」
平蔵の妻・久栄には、人に言えない過去がある。世間に知られれば、平蔵の立場も危うくなると、久恵は気を揉む。しかし、平蔵はまるで意に介さない。「知る人ぞ知ることだ。かまわぬ」と笑い飛ばす。
噂話は時に“根も葉もある”ものだ。長く仕事をしていれば誰しもスネに一つや二つの傷はあるだろう。慌てて隠蔽に走るのは言うまでもなく、逆効果。隠すほど、周囲の信頼は失われる。思い出すべきは平蔵スタイル。堂々と振る舞い、謝るべきは謝ることにこそ、活路がある。
「きいたが、忘れた」
平蔵は妻・久栄の“若気のいたり”を知った上で、結婚を申し出る。戸惑う久枝が「わたしのことを……」と聞くと、「知ったが忘れた」と抱き寄せ、夫婦となる。以来、一度も妻の過去に触れることはなかったという。
「あの噂、聞いた?」と問われ、「聞いてない」と答えるのも白々しい。そんな場面で思い出したいのが、この平蔵のセリフだ。忘れたの一点張りで押し通すのは、それだけ“どうでもいい情報である”という宣誓であり、励ましでもある。相手は大いに勇気づけられるだろう。
秘密の共有は一見、たやすく人と人との距離を近づけるように見える。だが、周囲の気を引くための噂話は、着実に人間関係を破壊する。噂やゴシップが始まったら、すみやかにその場を離れる。“逃げ足”を鍛えることが、何よりの自衛なのだ。
<文/島影真奈美>
<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
『鬼平犯科帳〈3〉』 時代小説の定番ベストセラー「鬼平」シリーズ |
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