同僚の目も気にせずサボってばかりいる人につける薬

“手を抜いてナンボ”が信条の人がいる。口を開けば、「適当でいいよ」。隙あらば、本人がサボるのはもちろん、周囲にも手抜きを推奨。責任ある立場であっても関係なく、「だって、面倒くさいじゃん」と投げ出す。そんな相手と仕事をする羽目に陥ったら、どう対峙すべきか。

写真はイメージです。

 今回は池波正太郎の『鬼平犯科帳〈2〉』から打開策を探りたい。 “鬼の平蔵”と恐れられた火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官・長谷川平蔵の活躍を描いた本作は、歌舞伎俳優・中村吉右衛門主演でドラマ化。テレビ時代劇の金字塔となった同シリーズは今年、通算150本目となる「鬼平犯科帳 THE FINAL」(12月2日・3日、フジテレビ系)で幕を下ろす。

「悪事をはたらきつつ、知らず識らず善事をたのしむ。これが人間だわさ」

“鬼の平蔵”の部下、木村忠吾が商売女にハマり、職場を抜け出す。結果、盗賊一味に出くわし、捕縛の手柄をたてる。恥じ入る忠吾に、平蔵は「悪事をはたらきつつ、知らず識らず善事をたのしむ。これが人間だわさ」と笑い、慰める。 サボりたがる上司は多くの場合、部下から嫌われる。余計な仕事を増やし、やる気をそぐのがその理由だ。しかし、彼らのやる気レスな発言は、働き方を振り返るきっかけにもなる。仕事の進め方が適切か、確認するアラートとして積極的に活用しよう。グウタラ上司が思わぬ真理を突くこともあるのだ。

「どうしても死にたいのなら、一年後にしてごらん」

 大川(現在の隅田川)に身を投げようとした女を呼び止め、平蔵は「どうしても死にたいのなら、一年後にしてごらん」と諭す。「一年も経てば、すべてが変わってくる」という平蔵の励ましに、女は身投げを思いとどまる。  上司の怠慢がどうにも許せず、爆発寸前というときに思い出したいのが、このセリフ。追い詰められた状況では、思考も鈍る。結論を出す時期をいったん先送りし、冷静な思考力を取り戻すのが先決。期限を決め、目の前の仕事に没頭すれば、事態が好転する可能性もある。

「常道にはまりこむのはいかぬ」

 押し込み強盗に入られた商家で働く若者が、強盗の一味ではないかと疑われる。証言に不信な点もあり、いよいよ疑わしいが、平蔵は「常道にはまりこむのはいかぬ」と自戒する。思い込みが捜査の眼尾をくもらせることをわきまえていたからだ。 “いい上司”ほど、部下の能力を引き出すと、よく言われる。だが、“グウタラ上司”もまた、部下を育てる。アテにならないからこそ、覚悟をもって仕事にのぞめるし、責任逃れさせない話術も自然と身につく。それらはいずれ、取引先との交渉にも活かせるはずだ。  どんなに気力に溢れる人も、やる気を失う瞬間は訪れる。だが、多くの仕事は“次のやる気”を待ってはくれない。やる気とは関係なく、仕事が回る仕組みが必要なのだ。やる気レスな上司の言動はまさに、その仕組みづくりのヒントになりうる。 <文/島影真奈美> ―【仕事に効く時代小説】『鬼平犯科帳〈2〉』(文春文庫) <プロフィール> しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
鬼平犯科帳〈2〉

四季おりおりの江戸の風物を背景に、喜びや悲しみを秘めた江戸の人間が生きている

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