有人宇宙船「神舟」の打ち上げ Image Credit: The State Council of the People's Republic of China
今回挙げた3つの事例以外にも、新しいロケット発射場が完成したり、先進的な技術を積んだ試験衛星が打ち上げられたり、宇宙ベンチャー企業がいくつも現れたりなど、中国の宇宙開発の勢いはとどまるところを知らない。
中国はすでに、名実ともに宇宙大国の地位に登り詰めた。そしてそう遠くないうちに、宇宙開発における日本の地位は、相対的に下がることになるだろう。
世界経済フォーラムが今年1月に発表した資料によれば、2013年時点での中国の宇宙予算は約61億1100万ドルであったという。これは約393億ドルの予算を投じた米国と比べると約6分の1に過ぎないが、日本と比べると約2倍の規模になる。宇宙開発にかかわる機関、大学、そして人員の数も桁違いである。前述のようにロケットや衛星の打ち上げ数も大きく水をあけられるなど、すでに総合力では対抗し得なくなっている。
日本がリードしている部分がないわけではない。たとえば小惑星探査機「はやぶさ」や、天文衛星による長年の宇宙観測などは、中国がまだなしえていない成果のひとつである。ロケットや衛星の技術の一部でも、まだ勝っている部分はある。しかし、そのリードが縮められ、あるいは抜かれ、日本の宇宙開発があらゆる面で中国に対抗し得なくなるのは時間の問題となりつつある。
もちろん、かつて「はやぶさ」が、当時まだNASAもなし得ていなかったミッションを成功させたように、”山椒は小粒でもぴりりと辛い”ことをやって、ある分野において中国、米国らを出し抜き、存在感を示すことは不可能ではない。しかし、それはいつも通用するものではない。また、月・惑星探査にしても天文観測にしても継続すること重要であるから、総合力で劣っていればすぐに抜かれ、朝顔の花一時に終わってしまうことになるだろう。
宇宙開発における日本の地位が下がれば、他国との国際共同プロジェクトへの参加機会や、他国からやってくる研究者の数も減少する。逆に日本からの頭脳流出はより進むだろう。それは宇宙開発に限らず、他の科学・技術の分野にも影響を及ぼす(他の分野ではすでに起こり始めている)。ゆくゆくは日本そのものの存在感の低下を招くことになるだろう。
残念ながら、日本の財政事情と、今後の少子高齢化を考えれば、今よりも多くの予算が宇宙開発に投じられることはないだろう。その中で、これから中国にどのように対抗していくべきなのかを改めて考えるところに来ている。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト:
http://kosmograd.info/about/
【参考】
・
http://www.spacechina.com/n25/n144/n206/n214/c1480984/content.html
・
http://www.calt.com/n482/n742/c6698/content.html
・世界の宇宙政策・予算の現状(
http://www8.cao.go.jp/space/seminar/dai1/cao-2.pdf)
・Which countries spend the most on space exploration? | World Economic Forum(
https://www.weforum.org/agenda/2016/01/which-countries-spend-the-most-on-space-exploration/)
・宇宙関係予算について : 宇宙政策 – 内閣府(
http://www8.cao.go.jp/space/budget/yosan.html)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
КОСМОГРАД
Twitter:
@Kosmograd_Info