中国の月探査車「玉兎号」 Image Credit: Chinese Academy of Sciences
中国の宇宙開発はこれまで、実利に重点を置いた方針を取ってきた。たとえば広大な国土をつなぐための通信・放送衛星や、災害の状況や農作物、森林などを把握するための地球観測衛星、そして中国人民解放軍の軍事衛星など、直接的に中国政府や国民の役に立つ衛星を中心に打ち上げていた。
その一方で、月や惑星を探査したり、宇宙を観測したりといった、宇宙科学の分野はほとんど手付かずだった。しかし2000年代から、神舟宇宙船の打ち上げに始まり、月探査機や火星探査機、天文衛星の打ち上げを開始。とくに月探査においては、月で一定の成果が出たあとに小惑星探査に赴いたり、無人の月面探査車を走らせたりなど、その活躍には目をみはるものがある。
こうした宇宙科学の分野は、必ずしも短期的・直接的に何かの役に立つものではないものの、長期的には国家に、国民に、そして人類にとって大きな価値を生み出すことになる。米国の物理学者で、フェルミ国立加速器研究所の初代所長も務めたロバート・ラスバン・ウィルソンは、莫大な予算を要する加速器を造ろうとしたとき、ある議員から「この機械で国を守れるのか?」と問われ、それに対し「たしかに国は守れないが、しかし守るべき価値のある国をつくることができる」と返したという逸話がある。中国もまさにその価値を認識し、そして実施できるだけの予算や、工学・理学の人材、また彼らが研究できる環境や、育てる大学や機関が揃ったということを意味している。
ダーク・マターの検出に挑む探査衛星「悟空」(DAMPE)の想像図 Image Credit: Chinese Academy of Sciences
現在も、新しい月・火星探査機の開発や、小惑星や金星探査機、天文衛星などの開発を積極的に続けている。いかんせん積み重ねが少ないため、まだ目立った成果はないものの、今後も宇宙科学分野への投資を積極的に続け、また国際協力も進めば、中国が宇宙科学において大きな成果を挙げることもできるだろう。