「長期化」「子供自身が選ぶ」激変するランドセル商戦

 2015年8月、電通総研の「高齢者のライフスタイルと消費・働き方」調査によると、祖父母が孫のためにかける「年間支出額」は平均24万6000円。同年6月に行った三菱総研の調査を見ても、「3世代消費」の市場規模は実に3兆8000億円になるというから、ランドセル業界が、お祖父さんお祖母さんの財布をあてにするのは当然の帰結と言えるかもしれない。  価格帯もかなり幅がある。大手ランドセルメーカー「フィットちゃん」が公表している人気の価格帯は、トップが「4万円~4万9999円」。「天使のはね」で有名な大手「セイバン」の2017年度版人気モデルでは、おとぎの世界をイメージさせる光沢感あるパールの生地を使用した「モデルロイヤル・レジオ プリンセス」がもっとも人気だが、こちらの値段は7万3440円となっている。下は1~2万円台から、上は10万円を超える商品も多く、アマゾンのラインナップを見ると、最高値はイタリアのレザーブランド「PERONI」の純金装飾入りハンドメイド・ランドセル「Peroni Zainetto Randoseru」(ブライアーブラウン)で、実に17万2800円の値がつけられているほどだ。鈴木氏が続ける。 「オリジナルブランドを持つ大手流通グループ『イオン』が、2001年に業界初の24色ランドセルを発売したことで、『ランドセルは黒と赤』という固定概念が崩れ、今ではデザイン、色、飾り、刺繍、機能……など、個性的なランドセルが増えたこともあって、お客さまの側もじっくりと時間をかけて選ぶようになったと思います。ただ、ヴィジュアルはもちろん、価格帯も多様化したことで、商品開発にかかる時間やコストもかさみ、それがランドセル商戦の“長期化”を招いているのかもしれませんね。実際、私どものライナップのなかでも、製作に10か月かかってしまうランドセルもありますし、最近ではこの時間のギャップを効率化するために、『早期予約割引』や『期間限定早割』を導入している会社も多いのです」  鈴木氏の話すように、「早割」のサービスはランドセルメーカー系、量販店系、工房系……を問わず、多くのメーカーが取り入れており、漏れなくネームプレートとネーム入れのサービスがついてきたり、マスコットキャラのプレゼント、さらには、ポイント還元といった特典を設けているメーカーもあるようだ。  “主役”は言うまでもなく、来春新入学を迎える子供自身なのだが、巨大化するランドセル市場は、百花繚乱の趣。百貨店の特設売り場に足を運ぶと、フリルや刺繍をあしらったロココ調のブランドものや、マカロニウエスタン・テイスト、さらにはメタリックカラーの変わり種まで、まさに咲き乱れているかのように展示棚を賑わせている。 「ただ、ランドセル選びに関しては、ここにきて『原点回帰』しているような傾向も感じます。現代では、どのランドセルを購入するかを決めるのはお子さま自身。2014年のベネッセコーポレーションの調査によると、2001年には母親が45.2%ランドセルを選んでいたにもかかわらず、2011年には子ども自身が60.2%ランドセルを選んでいます。このため、大ヒットした映画『アナと雪の女王』の影響で紫やピンク、水色などのパール光沢が人気上位を占める現象も起こりましたが、ランドセルは6年間使い続ける鞄。派手な色のランドセルはお子さまが高学年に進級すると、『飽きて』しまって背負ってくれないことも多いことがわかってきました。そこで、6年間背負い続けても飽きがこないシンプルなデザインや色が好まれてきているように感じます。あくまで私の体感なので、来期以降の大きなトレンドになるのかどうか見定めている段階ではありますが」(鈴木氏)  進化を続ける巨大ランドセル市場を巡る戦いは、まだ始まったばかりということだ。<取材・文/HBO取材班>
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