相手のモチベーションエリアに合わせた表現力を身に付ける
にもかかわらず、現実に行われている、上司と部下、セールスと顧客、彼と彼女のコミュニケーションは、ビジネスの現場や演習参加者の状況を見る限り、
モチベーションエリアを無視したり、自分のモチベーションエリアと同じはずだと思い込んだり、自分のそれに合わせるべきだと固執したりしているケースが、ほとんどだ。
「地位権限」型の上司が、「安定保障」型で現状維持を望んでいる部下へ、リスクはあるがこれをやり遂げれば昇格できるぞと鼓舞しても効かないのだ。「自律裁量」型が、何でも自分で決めたり行動したりしたい彼女に、相手への配慮のつもりで「他者協調」型の彼が、あれはどうだ、これはどうだと、細かな世話を焼いても、うるさがられるだけだ。
「安定保障」型の部下には、上司がどのモチベーションエリアだろうと、
「リスクは自分がカバーするから、安心してやってみろ」という意味のコミュニケーションを繰り出すとよい。
「自律裁量」型の彼女には、
自分のモチベーションエリアとは関係なく、「選んでみて!」「どちらが良い?」と聞けば、格段に関係の質は高まる。
冒頭の、「公私調和」型の部下に対しては、「予定があろうがなかろうが、やれと言ったらやれ!」とキレたり、自分の「目標達成」型の武勇伝を持ち出しても全く効果がないばかりか、逆効果だ。そのかわりに、
「期限は明日の午前中だ。いろいろとプライベートな予定もあるだろうから、無理をかけるが、頼む」と言うだけで、モチベーションの上り度合は大きく異なるのだ。
※「モチベーションエリアの見極め」のスキルは、山口博著『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)のドリル28で、セルフトレーニングできます。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第14回】
<文/山口博>
※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。国内外金融機関、IT企業、製造業企業でトレーニング部長、人材開発部長、人事部長を経て、外資系コンサルティング会社ディレクター。分解スキル・反復演習型能力開発プログラムの普及に努める。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日経ビジネスセミナー講師(2016年)。日本ナレッジマネジメント学会会員。日経ビジネスオンライン「エグゼクティブのための10分間トレーニング」、KINZAI Financial Plan「クライアントを引き付けるナビゲーションスキルトレーニング」、ダイヤモンドオンライン「トンデモ人事部が会社を壊す」連載中。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。慶應義塾大学法学部卒業、サンパウロ大学法学部留学。長野県上田市出身