「新鮮な魚を食べたい」という日本特有のニーズが生んだ仕事
仲買人とは、仲卸業を営む人間を指す。仲卸業(仲買)とは、産地から届く品物を集める大卸と、小売業者や飲食店などの間に入り、魚を分配して販売する仕事のことだ。築地で仲卸を行うには、東京都の許可がいる。都ではすでに“仲買人”という言葉を採用していないが、80年もの歴史を持つ築地市場の現場で働く人間たちの間では今も使われている言葉だ。
「俺は築地の隣の佃の生まれでね。魚河岸を見て育ってきたんだけど、自分も仲買人になるとは想像してなかったよね。俺が入った時代には『河岸には染まるな』って言われてた。今では違うけど昔は築地は外の世界と常識が違ってたね」
そう語るのは、築地で仲卸業30年の仲買人、松崎徹さんだ。松崎さんは老舗の仲卸会社、大正12年創業の「株式会社濱長」にて営業部長を務める。
濱長は、先代が内湾特種物連合会会長として江戸前の新たな定義を引き直したという仲卸の老舗。先見の明に長け、いまでは当たり前のように食べている生ホタテがまだ珍しかった時代に北海道から空輸を行い寿司種に取り入れたという、いわば現在の寿司の原形を作った功労者でもある。
築地までの卸の仕組みは通常取れた魚を生産者から産地市場や漁連で買い上げ、産地の仲卸を通じて消費地である築地に届ける。そこで魚は大卸から仲卸に分配され飲食店に買われていく。捕れたばかりの魚が翌日には築地に並ぶ世界でも画期的な仕組みは「新鮮な魚を生のまま食べたい」という日本特有のニーズから生みだされた。ではその仕組みの中で仲買人はどうやって働いているのだろうか。