スペースXのイーロン・マスク氏と同社の主力ロケット「ファルコン9」 Photo by SpaceX
ところが、その独占に異議を唱え、独占を崩そうとした者がいた。イーロン・マスク氏率いるスペースXである。
先ほど「ULA以外に軍事衛星の打ち上げに使える大型ロケットをもっている企業が無かった」と書いたが、これには二重の意味がある。一つは文字どおり、軍事衛星を打ち上げられるほど大きな能力のロケットをもっている米国企業が、ULAの他になかったということである。だが、スペースXは2010年に大型ロケットの「ファルコン9」を開発。打ち上げ能力の点では、アトラスVとデルタIVに引けをとらないロケットを手に入れた。
しかし、いくらアトラスVとデルタIVに匹敵する大型ロケットがあっても、それだけでは軍事衛星の打ち上げには使えない。それがもう一つの意味で、実は軍事衛星の打ち上げには、米空軍からロケットの性能や信頼性などに対する厳しい審査を受け、認証を得ることが必要だった。
スペースXは二つの方向から米空軍とULAを攻めた。まず2013年から、ファルコン9も米空軍からの認証を得るために必要な手続きを始め、そして2014年には「ULAによる軍事衛星打ち上げの独占は違法である」と、合衆国連邦請求裁判所に提訴したのである。
この一件はスペースXとULA、そして議員や業界関係者なども巻き込み、法廷外でも大きな論争となった。ULAやその支持者らにとっては、そもそも米空軍の衛星を打ち上げるために開発されたロケットをその目的のとおりに使って何が悪い、という話であるし、また国防に関する衛星を打ち上げる以上、信頼性がなによりも重要であるものの、ファルコン9の信頼性はまだ未知数で、すでに何十機も飛行しているアトラスVやデルタIVとは比較にならないという主張がなされた。
一方、スペースXとその支持者らは、ファルコン9の実績の少なさによる信頼性の低さは認めつつも、着実に打ち上げ回数を重ねていること、そして何より安価であることをアピールした。ファルコン9というと、ロケットを着陸させ、回収し、再使用することで低コスト化を狙っていることがよく報じられるが、実は現時点でも1機あたりの打ち上げコストは従来のロケットの半額か7割ほどと、再使用しなくても十分に安い。そして何より、ULAによる独占がそもそも不当なものであり、この提訴はスペースXのみに資するものではなく、他の企業にも競争の機会を与える意味があると主張した。
最終的に、この提訴は2015年1月に和解となり、スペースXは訴えを取り下げることになった。しかしスペースXが負けたわけではなく、ファルコン9が米空軍から軍事衛星打ち上げの認可を得られることがほぼ確実になっていたからである。そして同年5月26日、米空軍は「ファルコン9ロケットによる軍事衛星の打ち上げを許可する」と発表した。