イーロン・マスクのスペースX社、米軍事衛星打ち上げの「独占」を打ち砕く

軍事衛星打ち上げ目的で開発されたロケット

アトラスVロケット Photo by ULA

 ボーイングとロッキード・マーティンが軍事衛星の打ち上げを独占していた背景には、そもそも両社が、軍事衛星の打ち上げを目的としたロケットを開発したことがあった。  米空軍は米国内の航空宇宙メーカーに、新しいロケットの開発依頼を出した。「発展型使い捨て打ち上げ機」と呼ばれたその開発計画の目的は、「米国の軍事衛星や政府系衛星を、安定して打ち上げるための新たなロケットを開発する」ということにあった。軍事衛星や政府系衛星という言葉には、米空軍の衛星はもちろん、NROの衛星も含まれるし、また米国航空宇宙局(NASA)や海洋大気庁(NOAA)なども一応は含まれるため、官需衛星と言い換えることもできよう。

ボーイングとロッキード・マーティン共同出資で会社設立

デルタIVロケット Photo by ULA

 そしていくつか寄せられた提案の中から、最終的にボーイングとロッキード・マーティンの2社が選ばれ、米空軍からの資金を得て、ボーイングは「デルタIV」というロケットを、ロッキード・マーティンは「アトラスV」というロケットを開発した。その後、2006年に両社はそれぞれ半々の出資で、ロケット打ち上げ専門の別会社ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)を設立し、現在はこのULAがロケットの運用や販売などを担当している。なお、どちらかというとデルタIVはコストが高いため、アトラスVが実質主力ロケットという扱いをされている。  米空軍はULAをかなり優遇し、小型の実験機などの例外を除けば、ほぼすべての軍事衛星の打ち上げをULAのアトラスVとデルタIVに任せている。とくに、GPS衛星は打ち上げ機数が多いことから、打ち上げを数十回機分まとめて一括で発注する、「ブロック・バイ」(Block Buy)まで行っている。  米空軍にとってみれば、そもそもアトラスVとデルタIVは軍事衛星を打ち上げることを目的に、民間企業に開発資金を提供して開発させたロケットであり、それを使わないという選択肢はない。一方のULAにとっても、それに応えないという選択肢はないし、複数の打ち上げを一括で受注することで、ロケットの生産コストの削減や、関連する設備や部品などの購入も効率良く行えるため、どちらにとっても利益があった。  さらに、ULA以外に軍事衛星の打ち上げに使える大型ロケットをもっている米国企業はなく、もちろん国防に関する衛星なので外国の企業はもってのほかであるため、事実上、米国の軍事衛星の打ち上げはULAが独占し、他社が参入できない、ある種の聖域となっていたのである。
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イーロン・マスク率いるスペースXからの提訴
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