今や納豆の定番「金のつぶ」――業界構造を変えた20年前のイノベーションとは?

ミツカンが起こした納豆イノベーションとは?

 さて、ここまで見てきた通り、江戸時代の粕酢に始まり、時には失敗も重ねながら、ポン酢をはじめ、単なる新商品にとどまらない、新しい食習慣そのものを提案するような商品を次々と食卓に提供してきたミツカン。最近ではM&Aによって日本だけでなく、海外にもその展開を広げているのは前述の通りですが、一方で20年前から、ある伝統的な食品分野でも台風の目となっていることにお気づきでしょうか? その分野とは「納豆」です。最後にそちらでの展開にも触れておきたいと思います。  ミツカンが朝日食品の買収により、食酢醸造で培った菌の育種や発酵技術が活かせるとして、納豆事業に本格参戦したのは8代目が経営を受け継いだ後の1997年。ちなみに、納豆業界というのは地方の小規模業者が多い業界で、トップ10のメーカーでも一桁台のシェア率が並ぶのですが「おかめ納豆」でおなじみのタカノフーズのみ別格で、30%前後のシェアを獲得しています。そんな納豆業界参入の切り札として、ミツカンが翌年の1998年に投入した商品こそが、厳選した大豆をこだわりの製法で仕上げた「金のつぶ」でした。  ここで金のつぶシリーズが、美味しさに加えて納豆という伝統食品で起こしたイノベーションをいくつか挙げてみましょう。 金のつぶ「におわなっとう」(2000年) 約2万の納豆菌の中から探し当てた菌により、納豆特有の気になるにおいだけを抑えることに成功。2006年までに10億食を超える大ヒット。 金のつぶ「ほね元気」(2000年) 骨を強くする働きのあるビタミンK2を従来の納豆の1.5倍以上含み、納豆業界としては初めて特定保健用食品の許可を獲得。 金のつぶ「超やわらか納豆」(2007年) 水分量がごはんとほぼ同じで、とろけるような食感が特徴の「とろっ豆」を開発。ごはんとの相性が抜群との評価を獲得し、発売から6ヶ月で1億7000食を超える大ヒット。 金のつぶ「あらっ便利!」(2008年) たれの小袋とフィルムをなくし、たれを箸でつまんで納豆に混ぜるだけで食べられる画期的な商品。利便性の高さに加えて、家庭ゴミを年間45トン削減することにも成功。 金のつぶ「パキッとたれ」(2012年) 好評だった「あらっ便利!」でしたが、たれが溶けづらい、納豆のスペースが狭いという声に応えるべく開発。液体たれの入ったふたの上部をパキッと割る予想外の楽しさもあり、1年で2億食を突破する大ヒット。  こうして、金のつぶシリーズで納豆にイノベーションを起こしたミツカン、加えて2009年に関東を中心に人気の「くめ納豆」を、2011年には西日本で人気の「なっとういち」をそれぞれ買収、遂にタカノフーズと2強を形成するに至り、見事に納豆業界への参入を成功させました。

挑戦の歴史が証明する、有言実行の企業理念

 今回は、数々の挑戦に彩られたミツカンの歴史を取り上げてみましたがいかがでしたでしょうか。最後は、そんなミツカンの企業理念をご紹介して締めさせて頂きたいと思います。 「買う身になって まごころこめて 良い品を」 「脚下照顧に基づく現状否認の実行」  大企業の企業理念というと、えてして現実とかけ離れた建前を感じることも少なくありませんが、ミツカンの場合は実に重みを感じる企業理念と言えそうですね。 決算数字の留意事項 基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。 【平野健児(ひらのけんじ)】 1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。 <写真/Natcham N
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