未遂に終わったトルコのクーデター。「ヤラセ」疑惑も飛び出す

クーデター失敗で飛び交う「噂」

 クーデターが短時間で未遂に終わったことに、不審を抱く政治分析家もいる。彼らが口を揃えて言っているのはエルドアン大統領が企んだ「自己クーデターだ」ということだ。クーデター後、エルドアン大統領への支持がより強まったことも、この説を主張する人々の疑念を強固なものにしている。そして、軍部からの反応は鈍いままである。 「自己クーデターだ」と述べている人の中には、トルコに影響力を持つ人もいる。トルコの学者であり、現在は米国ペンシルベニアに在住するトルコの市民運動指導者であるフェットフッラー・ギュレン師である。エルドアン大統領に不利な出来事を起きるとその背後がギュレン師がそれを操っているというのを口にするのがエルドアンの常である。  ギュレン師は1980年代に誕生した若者を対象にした教育でイスラムの普遍性を説き、イスラム教条主義とは異なり宗教間の対話なども重視した教えを説いたヒズメット運動の推進者である。その普遍性から多くの信奉者が集まった。エルドアンとギュレン師は公正発展党の設立当初は協力関係にあった。しかし政治的都合からギュレン師の時期尚早という反対にも拘らずエルドアンは首相当時クルド労働者党に接近し、そしてイスラム教条主義に傾斜して行った。それがギュレン師の世俗主義と対立した。  トルコ国内に多くの信奉者をもつギュレン師の考えはトルコの司法界や警察に多くいるという。しかも、『ザマン』紙の所有者もギューレン師の信奉者である。独裁化を強めるエルドアンにとって、世俗主義でしかも巨大な地下組織をもつギュレン師の存在は脅威となっていた。エルドアン大統領はギュレン師を国家の安定を脅やかすテロリストだとも呼んでいる。  今回、多くの判事を更迭しているが、彼らの多くがギュレン師の信奉者であるというのが本当の理由だ。よって、彼らがどこまで今回のクーデター未遂に関与していたか疑問視されている。  エルドアン大統領は米国政府に対し、彼の本国送還を今回のクーデター未遂を利用してまた要求した。米国政府はまず正式に送還要請をするようにトルコ政府に伝えた。米国政府にとってギュレン師の庇護はトルコの陰を動きを掴むのに有用な人物である。今回のクーデター未遂から今後エルドアン大統領の動きを観察して行くにはギュレン師の存在は非常に重要となって来る。
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エルドアン大統領の独裁色が強まる限りテロは終わらない
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