武道関連予算折衝の根拠となる「体育館は怪我が多い」は本当か?
それでは何故、武道関連予算はこれほど厚遇されてきたのでしょうか?それは中学校武道必修化に際し、文科省が財務省に対して「安全で円滑な授業を行うため」には武道場が必要であるとし、さらに具体的な理由として「体育館の方が武道場より怪我が多い」と説明し、武道場の整備が認められたからだと思われます。
財務省もそう言われても根拠のないものに予算を付けるはずもなく、必ずや「体育館で怪我が多いという統計に基づく実証的な根拠を示せ」と応答したはずです。私はこの時に文科省が財務省への説得材料として提出した資料があるはずだと思い探しましたが、ズバリこれだというものは見つかりませんでした。しかし、これではないかと思い当たる資料はあります。
文科省の担当者が教育専門紙の取材に答えたWEB上のインタビュー記事なのですが、ここで担当者は武道場整備が必要な理由について言及し、「武道の実施場所の割合は体育館と武道場でほぼ同じなのに体育館と武道場の怪我の発生比率は7対3」と答えています(日本教育新聞社HP 2009年7月20日)。この担当者は「日本スポーツ振興センター(JSC)の2005~2007年度のデータから武道中の怪我の場所別発生割合をまとめた」と語っていますので、学校管理下で怪我をした児童・生徒が災害共済給付制度の給付金を請求する際に添付する災害報告書がデータの基になっていることが分かります。
体育館と武道場の怪我の割合「7対3」は「統計のウソ」!?
しかし私は災害報告書の記入用紙を見て愕然としました。「災害発生の場所」欄の選択肢には「体育館・屋内運動場」はありますが、「武道場」という選択肢はないのです。武道場は「屋内運動場」の一形態と捉えられるでしょうから、普通なら給付金請求者は武道場での怪我は「体育館・屋内運動場」にマルをつけるものと解釈するのが自然です。どうしても武道場と書きたい人は、「その他」欄にマルをつけて、カッコ内に武道場と書かない限り、武道場で怪我をしたという記録は何も残りません。
これで、どうやって「体育館の方が武道場より怪我が多く、怪我の割合は体育館:武道場=7:3」ということを調べることができるのでしょうか?担当者は3年間分のデータを調べたと言いますが、中学校における武道による怪我だけでも給付金の請求件数は毎年1万5千~2万件もあるので、3年間で5万件にもなります。文科省は5万件もの負傷者に個別に事後追跡調査をしたのでしょうか?そんなことは出来るはずがありません。「怪我の割合は体育館:武道場=7:3」というデータは文科省が財務省を説得せんがために捏造したものだという可能性すらあるのです。「統計でウソをつく法」という名著(ダレル・ハフ 講談社ブルーバックス 1968年7月)がありますが、このデータは「統計のウソ」と疑うべきです。