イギリスのEU離脱で高ぶる反移民感情とヘイトクライムの実態

くすぶり続けていた反移民感情

 当たり前のことながら、移民問題を理由にEU離脱を決断すること自体は人種差別ではないし、離脱に投票した人々イコール人種差別主義者あるいは排外主義者というわけでは決してない。しかし、国民投票前から離脱派の論調が人種差別を助長していると懸念する声は多かった。国民投票前の一ヶ月間で何度か耳にしたフレーズに、「離脱派全員が人種差別主義者ではないが、人種差別主義者の全員が離脱派だ」というものがある。離脱派全てに差別主義者というレッテルを貼ってはいけないが、離脱派の差別的な論調には注意すべきだ、という意味だろう。投票後のヘイトクライムの増加は、彼らの恐れが的中したと言える。  しかし、国民投票の結果がこれほど急激な変化をもたらしたのは、離脱キャンペーンなど始まるよりも前から英国社会の表面下でくすぶり続けていた不満が噴出したからに他ならない。もともと移民受け入れの歴史も長い多文化社会の英国では、反人種差別の意識も非常に高く、特に都市部では、日常生活でも少しでも偏見のある意見は強く忌避される傾向にある。しかし同時に差別に敏感になるあまり、移民問題について率直な意見交換がしにくくなった面もあるかもしれない。移民問題を取り巻く緊張感が高まるにつれて、移民を諸問題の元凶として差別的な論調を煽る極右層と、移民問題を懸念することがすなわち人種差別であると糾弾する極左層の両極に挟まれ、移民政策についての健全な議論の場は地雷原と化してしまった。そこにイスラム過激派のテロに関するニュースや、大手メディアによるセンセーショナルな移民問題の報道が加わり、しっかりした議論のないまま数年をかけ、水面下で反移民の感情は膨張していたのだ。それが移民問題を大きく掲げた離脱派の勝利で堰を切ったように溢れ出し、一部の極端な差別主義者は、これを人種差別が社会的に正当化されたと曲解したようだ。
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Twitterで広まった反差別運動 #Safetypinキャンペーン
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