企業の禍福も糾える縄の如し?明星食品に見るアップダウン
この一連のディールで、10億円を超える現金を得た創業家、30億円の利益を得たスティール、シェア50%超えを視野に入れた日清食品に比べて、一人負けしたとも言える明星食品、確かに引き金を引いたのはスティールですが、ここまで見てきた歴史を俯瞰してみると、良くも悪くも運命的な流れだったのかもしれないとも感じます。歴史に『もしも』はありませんが、あえて挙げみると
「もし、カップ麺第一号が実現していたら、日清食品のポジションについていたのは明星食品だったかもしれない」
「もし、カップ麺第一号が実現していたら『チャルメラ』『中麺』『中華三昧』といった袋麺の名作は誕生していなかったかもしれない」
「もし、高級麺路線の『中華三昧』の成功が無ければ、バブル後のデフレへの移行も赤字が出るほどではなかったかもしれない」
「もし、赤字が出なければ、抜本的な経営転換やリストラをすることはなく、創業家一族も経営陣に残っていたかもしれない」
「もし、経営陣に創業家の役員が残っていれば、『所有』と『経営』が分離して、スティールが買収することも無かったかもしれない」
といった感じでしょうか。
失敗が成功を呼び、成功が失敗を呼ぶという意味では、企業も人生と同じく、個々の事象を一定の時間軸のみで判断するのは難しいことなのかもしれません。もしかすると、痛みを伴った10年前の業界再編が今後プラスになることもあるかもしれませんしね。
さて、最後に一つ日清食品傘下でのエピソードを。カップ麺の「チャルメラ」の縦型カップは紙カップを使用していましたが、日清食品の傘下になった後の2010年からは「カップヌードル」などで使われている日清食品が独自に開発した「ECOカップ」に切り替わっています。かつて、カップ麺第一号の成否を分けた鍵が容器だったことを思うと、少し感慨深いものがありますね。
決算数字の留意事項
基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。
【平野健児(ひらのけんじ)】
1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『
SiteStock』や無料家計簿アプリ『
ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『
NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。
<写真/
Nixie Rhie>